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「ふぅん、そう」
なんてことない返事をした。
「じゃあ、このままで」
「そうして頂けますと助かります」
それからまた話が途切れたことにより食べていると、また美澄が口を開いた。
「そういや、なんでスーツで来てんの? 私服でも良かったんじゃなかったっけ? 最初就活生かと思ったよ」
「その⋯⋯きちんと見た目から見せようと⋯⋯」
「え、何を? 誰に?」
「誠意を⋯⋯」
何を言っているの、というように目を丸くしたのは一瞬で顔を歪めたかと思うと、テーブルを叩きつけ大笑いをした。
周りの談笑を遮るほどの大きな声はやがて、鋭い視線を一斉に浴びる原因をもたらした。
「あ、あの⋯⋯」
「いやぁ、ごめんごめん⋯⋯ひぃひっ、そんな返しがくるとは思わなくて⋯⋯ぶひひ⋯⋯っ、愛賀って天然?」
「あ⋯⋯え⋯⋯どうなんでしょう⋯⋯」
「ま、なんだっていいや。面白いことに変わりないし」
「そうですか⋯⋯」
自分が面白いと笑える人間ではないと思っていたから、そう言ってもらえて嬉しく思ったが、ふとこの面白いは純粋に面白いと思っているものなのか。
それにこの感じ、既視感がある。
「ま、子どももいるから色々と大変かー。じゃあ、その腕も子どもの引っかき傷なの?」
指差したものに途端、緊張が走る。
誰も彼も気になるはずだ。現に周りの人達もちらちら見ている視線を感じる。
けど、こうなった原因は言えない。
「これはまぁ⋯⋯そんな感じです」
「ふぅん、わんぱくボーイなんだね。俺も引っかき傷じゃないんだけど、ほら」
そう言って、袖を捲る。
露わになったのは、二の腕から肘辺りにかけてまでの大きな水膨れらしきものが走っていた。
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