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顔を青ざめた。 美澄も同じ目に遭ったのだろうか。 「それは⋯⋯」 「これは前にファミレスの調理バイトをしてたんだけど、その時予定外のヒートが来て、手元が狂ったのかなぁ、持ってた熱々フライパンが当たったんだよ」 にへへ、と不気味な笑いを見せる。 思ってもみなかった出来事に拍子抜けした。 そうとは思わなかった痕に、しかし自分と同じような目に遭ってなくて良かったと思った。 同時にあの環境の異常さが際立った。 「見た目は酷そうだけど全然痛くないから、そんな大げさな顔をしなくても」 「⋯⋯すみません」 「ま、見せた俺も悪いけど」 袖を直した美澄が食べることを再開したために、遅れて食べ始めた。 が、訊きたいことが不意に浮かび、迷うようにスプーンを揺らした後、ためらいがちに口を開いた。 「あの⋯⋯」 「何?」 「前にファミレスのバイトをしていたとのことですが、今は何の仕事をなさっているんですか?」 「んー、仕事って言ってもフリーターなんだけど、ほら、俺らってオメガじゃん? 発情期(ヒート)があるからってだけでなかなか続けられないし、もはやオメガってだけで断られたりするんだよね。でも、仕事しないと抑制剤買えないし、そもそも生活がままならないし」 メンマを箸で摘んでは、弄ぶように上下に振る。 バイトとして仕事にありつけたとしても、発情期のせいで、オメガというだけで切られてしまう。 他の人達と同じようにしようとしても、第二の性という大きな障害で阻まれてしまう。 「まー、ただ単に仕事でミスしまくってクビになることもあるんだけどね〜」 「⋯⋯へ?」 目をぱちくりさせる。 すると美澄はメンマを齧りながら続けた。

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