75 / 184
75.
顔を青ざめた。
美澄も同じ目に遭ったのだろうか。
「それは⋯⋯」
「これは前にファミレスの調理バイトをしてたんだけど、その時予定外のヒートが来て、手元が狂ったのかなぁ、持ってた熱々フライパンが当たったんだよ」
にへへ、と不気味な笑いを見せる。
思ってもみなかった出来事に拍子抜けした。
そうとは思わなかった痕に、しかし自分と同じような目に遭ってなくて良かったと思った。
同時にあの環境の異常さが際立った。
「見た目は酷そうだけど全然痛くないから、そんな大げさな顔をしなくても」
「⋯⋯すみません」
「ま、見せた俺も悪いけど」
袖を直した美澄が食べることを再開したために、遅れて食べ始めた。
が、訊きたいことが不意に浮かび、迷うようにスプーンを揺らした後、ためらいがちに口を開いた。
「あの⋯⋯」
「何?」
「前にファミレスのバイトをしていたとのことですが、今は何の仕事をなさっているんですか?」
「んー、仕事って言ってもフリーターなんだけど、ほら、俺らってオメガじゃん? 発情期 があるからってだけでなかなか続けられないし、もはやオメガってだけで断られたりするんだよね。でも、仕事しないと抑制剤買えないし、そもそも生活がままならないし」
メンマを箸で摘んでは、弄ぶように上下に振る。
バイトとして仕事にありつけたとしても、発情期のせいで、オメガというだけで切られてしまう。
他の人達と同じようにしようとしても、第二の性という大きな障害で阻まれてしまう。
「まー、ただ単に仕事でミスしまくってクビになることもあるんだけどね〜」
「⋯⋯へ?」
目をぱちくりさせる。
すると美澄はメンマを齧りながら続けた。
ともだちにシェアしよう!

