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86.
『うるさい』
突如、機械音が響き渡った。
いつの間にか大河はあいうえおボードを持って、ぽかんとする二人のことを怒っているような顔を見せつける。
『おぐちにものあげない。ままはぼくのもの』
大河は今にも壊さんばかりに文字を強く叩く。
それからもう一度『ままはぼくのもの』と打ち、足にしがみついた。
「大河⋯⋯」
二人のことを睨みつける大河のことを見つめていた。
「申し訳ありません、大河様。気分を害する発言をしてしまいました」
「はいはい、分かりましたよ。それはそれ、これはこれなんですね。図々しくてすみませんでしたね」
江藤は深々と下げ、小口は全くと言ったように腰に手を当てて仕方ないなと言った調子で返す。が、それに気づいた江藤に頭を鷲掴みにされ、無理やり頭を下げられていた。
それでも大河は、気に入らなさそうに眉を潜めていた。
「すみませんが、一旦その話は後にして頂ければと思います。姫宮様方は夕食の時間ですし、その上姫宮様はお疲れで早く休息を取りたいと思います。姫宮様、明日もあるのでしょう?」
「あ⋯⋯はい」
「でしたら早急にそのような話は終わらせてください。せっかく料理が温かいというのに、冷めてしまいますので」
上山の業務的な固い口調に、されどどことなく怒っているような彼女の雰囲気に二人は「はい、すみません」と言い、上山は「さ、姫宮様、大河様は席に座ってください」と言われ、手を繋いだ大河に引っ張られる形で席に座った。
「少し冷めてしまったかと思います。温め直しましょうか?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「左様でございますか」
続けて「お召し上がりください」と促されたことにより、手を合わせていただきますをした姫宮は大河と共に料理を口にした。
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