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「自分のペースを大切にされている方かなという印象です。あちらから話しかけてくることが多いのですが、話しかけているかと思いましたら、ゲームがしたいからと一人きりになれる場所にしに行ったりします。ゲームがお好きなようですし、そういう方なんだなという感じです」 「なるほど⋯⋯」 「あ、あと、初対面であるのにも関わらず名前呼びしてきたのは驚きましたね」 「名前呼び⋯⋯っ!? ってことは『愛賀』と?!」 「あ、はい⋯⋯」 ぐいっと鬼気迫るような顔の勢いを見せる江藤に、近づいていないのについ顔を引いた。 「私もそうお呼びしたいのに、御月堂様がいる手前控えているというのに、初対面で⋯⋯初対面で⋯⋯! 羨ましすぎる⋯⋯っ!」 きっと今まで言うことも我慢していたのだろう、本音らしきものを漏らす江藤が、地団駄を踏む勢いで悔しさを見せる。 「姫宮さん! 私今から本当の姉になりますから、名前呼びにして頂きます! ですから、姫宮さんも『お姉ちゃん』とお呼び頂ければ──」 「江藤さん」 上山が呼ぶ。 大きく言ったわけでもないのに、淡々と言ったその声は瞬間、空気が緊張しだした。 張り詰めた糸のようなその空気に姫宮も、そして呼ばれた江藤は顔を強ばらせ、それから上山を見た瞬間、しまったという顔を見せた。 「姫宮様のことを敬愛する気持ちは良く分かります。私もそのような気持ちはあります。ですが、度を過ぎた発言はかえって姫宮様の気を遣われることをお忘れなきよう」 はっきりとした顔を見せない彼女の目が据わっているように見えた。 江藤が青ざめた。 「す、すみません⋯⋯以後気をつけます⋯⋯」 声を震わせ、己の行動に恥じた江藤は「姫宮さんもすみません」と謝ってきたことにより、「別に大丈夫です」と返した。 驚きはしたが、そのような態度を見せられたら元々咎める気にはならないが、そのような気にならない。

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