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「そういえば⋯⋯その方を見ていると何故か小口さんのことを思い出すんです。きっと性格とか、あと私、大して面白くことを言ってないのに大笑いしたりするのですが、それが一番そう思った瞬間でして⋯⋯」 とはいえ、小口の場合は大笑いするほどではないけれども。 そこまで言う必要のないと思った言葉は、しかし沈黙が下りたことによってハッとした。 何か言ってはいけないことだっただろうか。 何故か上山と江藤が笑いを堪えているようで、身体を震わせている。 やはり何か場違いなことを言ってしまったのだろうか。 「なるほどなるほど、それは気が合うかもしれませんね。わたしも色んなゲームをしてますし趣味も合うかもしれません。機会があればお会いしたいところですね」 ふむふむと感心するように頷きながら、いつもと変わらずに淡々とした口調で言う小口に恐らく怒っているわけでも傷ついているわけでもなさそうだった。 しかし、眠たそうな目の奥にメラメラとした闘志のような火がちらりと見えたのは気のせいだろうか。 苦笑いをしていた姫宮だったが、またあることも思い出す。 「けど美澄さん、私が趣味がないと言った時、その前に写真を見せたのですが、それを撮ったのは私ですと言ったら、それで満たされているのなら、少しでも好きなら趣味だと仰ったり、慶様にこないだ食べたケーキ屋さんの名前が分からない時、一緒に思い出そうとしてくれたりして、その優しさが小口さんに似ているなと思ったりもしました」 大河のことで悩んでいた時、小口はいつもの調子でその答えを口にしてくれていた。 だから、そこまで良くないとは思わなかった。 小口はと言うと、ぽかんとした顔をしていた。 まるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔に、どうしたのだろうと首を傾げているとおもむろに口を開けた。 「姫宮さま、そんなだから御月堂さまが惚れるんですよ」 「⋯⋯え、え⋯⋯?」 何故、急に御月堂の話に。 動揺し、徐々に頬が熱くなっていくのを感じる姫宮にしてやったりな顔を覗かせる。 「まあ初々しいことですね。そりゃあまあ独り占めしたくなるのも頷けます」 「ぇ⋯⋯」 混乱を極める姫宮に『ままはぼくもの!』とボードを叩いてはぎゅうっと抱きつく大河に抱きしめ返す余裕もなかった。 ふと見せる笑みらしい顔をする御月堂のことを思い出してしまい、夕食どころじゃなくなったのだ。

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