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92.
風呂上がり。
夕食時の喧騒な出来事からひと息吐いた姫宮は、自室のベッドに腰掛け、携帯端末を見ていた。
玲美からこの日で大丈夫かと提案された日はちょうどクリスマスであったことから、それに了承し、そしてすぐに安野にその旨を伝えた。
それからもう一件。さっき送った相手から返事が来ていた。
慶様。
とふと、先程の小口の発言が甦ってしまい、ぼっと火が出るほど熱くなった。
風呂に入ったせいだと手で扇ぎつつ、彼が送ってきたメッセージを読む。
『教えてくれたことに感謝する。機会があれば食べてみようと思う』
送ってきた時間は大体夕食時。
きっと彼はすぐに買って食べたのかもしれない。
そう思い、くすくすと小さく笑っているとピコンっと音が鳴った。
それは誰かからメッセージが送られてきたという通知音。
はっとして誰から来たのだろうと思っていると、目を瞠った。
御月堂から写真が送られてきていた。
そこに写っていたのは、教えたケーキ屋の見覚えのあるガトーショコラ。
つまりそれは。
『私はこれにした。この控えめな苦さが珈琲とよく合う』
そのようなメッセージが次に送られてきたが、姫宮は斜め読みをして、頭に入って来なかった。
それよりも今日送ったのは、確か大河が食べている様子の写真だけだったはず。だから、姫宮が食べたケーキなんて知らないはずだ。
それなのに、これって──。
『愛賀は何を食べたのか』
高鳴る鼓動に追い討ちをかけるように、通知音が鳴ったことで一瞬心臓が飛び出るほどに驚いた。
御月堂は知らない。ただ純粋に訊きたかっただけ。
そう自分に言い聞かせ、己を落ち着かせるために深く呼吸を整えつつ、ゆっくりと文字を打った。
『私も慶様と同じものを食べました』
自分が打った文字をゆっくりと見た後、送った。
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