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『やり取りをしているうちに愛賀の声が聞きたくなってな。こないだ会ったばかりだというのに』 ふっと彼らしい笑い声が電話口から聞こえた。 やり取りをするのが煩わしいと思ったが、そんな不安を払拭するような言葉にじんわりと胸が温かくなった。 この声を聞いたら、姫宮もまた御月堂の声が聞きたい気持ちが強くなった。 「私も慶様の声が聞けて嬉しいです。⋯⋯私、まだ使いこなせなくて。すぐに返信が出来なくてすみません」 『そうだったのか。いや、私の方こそ急かすような感じだったな。今度からはもう少し間を空ける』 「いえ⋯⋯お気になさらずに」 『声を聞きたいのは山々だが、なかなか時間が取れないこともある。だからせめて、アプリ内でも対話ができたらと思う』 そこまで考えてくれていたのか。 彼の気遣いに気づけば頬が緩んでいた。 だが、彼の立場的にこうして電話で話す機会もなかなかないだろう。 だから的確な妙案ともいえる。 「お心遣いありがとうございます」 『そんな大したことない。気軽に会えないのが心苦しいだけだ』 「慶様の立場になりますと、なかなか大変かと思います。私には分かりかねることですが⋯⋯」 『そうだな⋯⋯。せめてもう少し会いに行ければと思うが、現実では難しい話だ。このようなことを強いてしまっている愛賀には申し訳ない』 「私はそんなこと⋯⋯。その⋯⋯私のために新しい住まいを用意してくださった上に、大河にまで気にかけて頂いて、なんとお礼をしたら良いのか⋯⋯」 そして、この身を持ってどう償うべきか。 私のせいで、と言いたくなってしまいそうになったが、そのようなことばかりを言っていても、かえって相手に気を遣わせてしまう。 けれども、そう思ってしまうほどに非力な自分では何にも返せない。 ぐっ、と下唇を噛んでいた。

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