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『礼は一切いらない』
耳に聞こえてきたはっきりとした断言に少し驚いた。
『ただ私がそうしたかっただけだ。愛賀は自分のせいだと思っているのだろう。そのようなことは微塵もない。お前にとって安心できる場所で大切な息子と共に穏やかに過ごせる環境にできればと思ってそうしたまでだ。⋯⋯そうして、私を迎えてくれればそれでいい』
幾分か柔らかい声音で紡がれた言葉は、彼なりの優しさに包まれて耳朶を震わす。
何度も口にしてしまっていたせいで、真っ先に自分のせいだと見透かされてしまっている。だからこその彼の気遣いが、けれどもそんなことを言わせてしまったのが申し訳なくも思った。
だから、ここは。
「⋯⋯ありがとうございます」
ふっと笑みを作って紡いだ。
『愛賀、さっきはなかなか会えないと言ったが、近いうちに来れるようになった』
「え⋯⋯?」
聞き間違いかと思った。
『それがいつになるかははっきりと分からないが、恐らく数日辺りだと思ってくれれば』
「本当に、ですか?」
『ああ』
次の言葉でそうだとはっきり言われたことで現実味が帯びてくる。
会えるんだ。
嬉しい。
いつ来るかは不確かではあるが、それでも数日待っていればきっと会えるかもしれないと思うと、楽しみで心が弾む。
大河の誕生日の際、御月堂が嫉妬したことでアルファのフェロモンが溢れ、それに充てられそうになった不安がないわけではないのだが、けれども会いたい気持ちの方が強い。
「慶様、私──」
言おうとした、その時。
部屋の扉が無遠慮に開かれたかと思うと、駆け出してきた大河がその勢いで抱きついてきたのだ。
「大河⋯⋯っ!」
『大河⋯⋯? 大河がどうした』
「あ、いえ、お風呂から上がってきた大河が抱きついてきたもので、驚いてしまって⋯⋯」
『⋯⋯そうか』
急に素っ頓狂な声を上げた原因が分かって、ひとまず安心と納得したといった声だった。
「ま⋯⋯っま」と頬擦りする綺麗になった頭を撫でながら話した。
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