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「大河に一応言っておくんだけど、近いうちに慶様が来るんだって」
瞬間、顔を上げた大河が眉を逆への字に曲げ、頬をぱんぱんに膨らませた。
あからさまな不服そうな顔に、分かりきった反応ではあるが、思わず苦笑を漏らす。
「ママはね、会いに来てくれて嬉しいの。とてもお忙しい方なのに、その合間にママのために時間を作ってくれたり、喋るのが苦手だけど、一生懸命話してくれたり、頭を撫でるのだってぎこちないけど、でもその不器用なところが可愛いって思えてたりして、好きって思えるんだ」
最近は頭を撫でることに慣れてきた様子ではあったが、それでも緊張は拭えないようでどことなく恐る恐るといった手つきだった。
そんなところも愛おしく感じられるところだった。
「それにね、こうして大河と会わせてくれたり、こんな立派で素敵なところに住まわせてくれているのは、慶様のおかげなんだよ。好きになってとは言わないけど、ありがとうっていう気持ちはあって欲しいかな」
「⋯⋯⋯⋯」
さらに眉間に皺を寄せる。
やはり気に入らなくて、頑なに拒絶しているのか。
このことに関しては何を言っても逆効果だろう。今はこの話は後にしよう。そうしようと思った。
その時、大河が膝上で背筋を伸ばした。
「え、大河、どうしたの──」
ぽんっと頭に手を置かれた。
えっと、驚いているとそのまま撫でてきたのだ。
「大河、え、えっ、どう⋯⋯え⋯⋯っ」
一体急にどうしたのだろう。
御月堂のことで大河が対抗したのだと思われるが、もしかしたらそれは⋯⋯。
混乱を極めていると、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。
「あ、はい、どうぞ」と慌てた口調で返事をすると、扉が開かれた。
「あ、やっぱり。まだ髪を乾かしてないのに⋯⋯って、何をしてるんですか?」
「大河が急に頭を撫でたくなったようで⋯⋯」
「ふ〜ん」
興味なさげな返事。のように聞こえたが、口角を上げ、眉なんて動かしてみせる。
これはまた面白いものを見つけたという表情だ。
大河はふんっと顔を逸らして、邪魔されて機嫌悪そうにしていた。
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