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「あれはね、お気に入りの写真や大河がくれた絵を飾っているんだよ。ほら、こないだもらった絵も飾っているでしょう?」 そう言って、指差した。 それは初めて治験に行った時、玄関に迎えに来てくれた大河が描いてくれたものだった。 「どれもこれも大切な宝物だよ」 写真を飾るのはもちろんのこと、大河が描いてくれた絵もたくさん飾れたらと思っていた。 指差した絵をじっと見つめているらしい大河の頭を愛おしげに撫でていた時だった。 不意に大河が膝から降りた。 「? 大河、どう──」 言い終えるか終えないかの時に大河が慌ただしく部屋から出て行った。 「大河⋯⋯?」 急な行動に目が点になっていると、隣から微かに物音と話し声らしき声が聞こえてきた。 どうやら隣の部屋に行ったようだが、何故。 とすぐに大河が戻ってきた。 その手にはお絵描き帳とクレヨンを持って。 「何? 大河。絵でも描きたくなったの?」 姫宮の問いかけに反応する間もなく、床にそれらを置いては描き始めた。 呆然としつつも、それを見ていると描き終えたらしい大河が描いた紙を切り離した。 それを姫宮に差し出してきた。 「これを、ママに?」 そう訊くとうんっと力強く頷いた。 「ありがとう」と言って受け取った絵を見ると、パジャマ姿の姫宮がそこに描かれていた。 再び大河に目を映すとまた何かを描き始めていた。 と間もなく書き終えたそれをまた切り離しては、また姫宮に渡してくる。 「あ、ありがとう⋯⋯?」 今度は大河の頭を撫でる姫宮の構図。 戸惑いを覚えていた姫宮だったが、そこで分かった。 これはきっとあげた絵を飾ってくれていた上に、大切だと言ったから、大河が嬉しくて描いては渡しているのだろう。 しかも何枚も。 どんどん描いては渡してくる大河に姫宮はいつしか苦笑いを浮かべてしまうのであった。

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