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110.
テレビを消し、立ち上がった時だった。
「ま⋯⋯っ!」
大きい声で呼ばれ、思わず驚いて振り返ると大河が駆け寄ってきた。
どことなく何かを訴えたい目に、どっちしろ無下にできず、大河の目線を合わせるようにしゃがんだ。
「ま⋯⋯ま⋯⋯」
「どうしたの」
「ま⋯⋯」
「うん」
「ま⋯⋯ぁ、ま」
「うん」
「ま⋯⋯っ、だ⋯⋯っす⋯⋯」
違う言葉を発しようとしている。
その言葉はついさっき伶介が発していた言葉。
固唾を飲んで見守る。
「だ⋯⋯ぁ⋯⋯す⋯⋯っ」
両手を握りしめ、踏ん張るような顔を見せる。
その言葉は⋯⋯。
「⋯だ⋯⋯っ、⋯⋯す⋯⋯き」
やっぱり。
分かっていたけれども、驚くには充分なものだった。
大河は満足したようで、ようやく言えたと言わんばかりに嬉しそうに抱きついてきた。
大河が言いたかったこと。
その驚きが段々と視界を滲ませるものとなった。
「大河⋯⋯。うん、ママも大好きだよ」
ぎゅうと抱きしめる。その感情が抑えきれなくて、嬉しくて堪らないといったように。
大河は頑張っている。大河なりに言葉を伝えようとしてくれている。
ふと、大河の背後にいた伶介と目が合った。
「伶介くんが大河に言葉を教えてくれていたんだよね。大河のためにありがとう」
「たーちゃんがじぶんではなしたいといっていたから、ぼくはてつだっただけです。でも、たーちゃんままもたーちゃんもうれしそうで、ぼくもうれしいです」
にっこりと笑う伶介に目を細めて笑う。
大河の初めての友達が伶介で良かったと本当に思った。
玲美も姫宮共々何かと気にかけてくれて、感謝してもしきれないほどだった。
こないだのケーキのお返しも含めて姫宮は、二人に何が返せるのだろうか。
何をしたら喜んでもらえるだろうか。
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