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112.
「安野は夜頃までの契約だったはず。こんな時間までいるのか」
「今日、クリスマスなので⋯⋯」
「クリスマス⋯⋯⋯ああ、そうか。そういえば松下も異様に張り切っていたな」
だが、今日は寝顔が見れなくて残念だとも言っていたなと言う御月堂の頬に触れる。
「⋯⋯愛賀?」
わずかに目を見開いた。
「本当に慶様なんですよね?」
「ああ、そうだが」
「近いうちに来ると仰いましたが、それがいつだと分かりませんでしたので、今目の前にいるのは本当に慶様なのかと、夢かと思ってしまいまして⋯⋯」
両手を掴み、頬から離した御月堂がキスをしてきた。
目を丸くした。
「不安にさせていたな」
「そんなこと⋯⋯」
「一応、連絡をしておいたのだが、気づかなかったか」
「え?」
咄嗟にポケットを探る。が、見つからない。
どこにやっただろうかと辺りを見ながら記憶を辿ると、あっと声を上げた。
風呂に入るからと自室に置きっぱなしで、いつもなら自室に籠るがそれだとそのまま寝てしまうと思い、風呂に上がってからリビングに来たのだった。
「すみません⋯⋯気づきませんでした」
「それは仕方ない。私も近いうちにとは言ったものの、直前にならないと分からないものだったからな。お互い様だ」
気にするなと言われたが、わざわざ連絡までしてくれたのに申し訳なさが立つ。
何かお詫びに。
まだ残る唇の感触に姫宮は思いついた。
「慶様」
「なんだ⋯⋯」
頬に手を添え、自ら顔を寄せ、唇に触れた。
「お詫びの意味合いが大きいのですが、こんな時間でも来てくださってありがとうございます。最高のクリスマスプレゼントです」
目を細めて微笑みにも似た顔をした。
自分からしたというのにまさか姫宮もするとは思わなかったのか、薄く口を開けて固まっている御月堂だが、その瞳はまだ触れたいと訴えているように感じた。
それは、彼の瞳に映っている自分か。
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