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113.
その瞳に吸い込まれるように顔を近づけ、唇を重ね合わせた。
「⋯⋯⋯」
見つめ合っている最中、下ろしていた御月堂の手にそっと触れる。
ピクっと反応したが、構わず彼の手を絡めた。
「⋯⋯愛賀はこの贈り物でいいのか?」
「はい。慶様と過ごせる上に、その⋯⋯甘いものまで。私には充分なものです」
「⋯⋯そうか」
その声音は納得してないようだった。
いつなのか知りたい誕生日プレゼントも贈りたいのに、クリスマスでさえ贈れないことに気を揉んでいるのだろう。
だが、この第二の性になってから何も与えられず、奪われるだけだった姫宮にとっては、今このひとときに満たされているのだ。
しかし、誕生日。
健康診断の時に記載された生年月日は、自分で書いてないから違和感はあるが、それでも妙にしっくりとくるのだ。
奇妙な感覚に襲われるが、その日だと御月堂に伝えるべきだろうか。それとも。
「慶様の方こそ、何か欲しいものはございますか?」
姫宮ばかりもらっては不公平だ。
出来る限り彼にお返しをしたいし、彼の誕生日だって知りたい。
「そうだな⋯⋯」
少し考えた後、こう言った。
「特にないな」
「そうですか⋯⋯」
「私も人のことを言えないな。私も愛賀と過ごせるだけで満足しているということだな」
「ふふ、そう言っていただけて嬉しいです」
とん、と肩に寄りかかる。
そう言われて気持ちも満たされるが、それでも何か物をあげたい気持ちは諦めきれなかった。
「慶様の誕生日はいつなのですか?」
「5月5日、だったかと」
不確かな言い方をする彼に思わず顔を上げた。
すると罰が悪そうな顔をした。
「すまない。自分の誕生日を祝ってもらう習慣がなくてな。確かその日だったかと思う」
自分以外でも自分の誕生日を忘れている人がいるんだ。
理由が違えども、自分だけじゃないことにありえなくもないことだと思うと、不安が少しでも払えた。
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