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治験を始めてから1ヶ月が過ぎた頃。 薬の副作用の有無や、また健康診断をすることとなり、初日を彷彿とさせる行動だった。 健康診断は一度やったことがあるから大丈夫。薬の副作用のこともあったかどうかと慣れてきた倉木研究長と話すだけのことだから、緊張したりもしない。大丈夫。 何事もないはず。 「──こないだの健康診断の結果ですが、前回と変わらない数値で安定してますね。体重の方は前回よりも増量してますが、ほぼ健康といって良いでしょう」 「はい」 「健康診断の方は以上です。続きまして、薬の副作用のことなのですが、この1ヶ月気になることはございませんか?」 「特には⋯⋯」 「頭痛だったり、腹痛、吐き気などは?」 「いえ、なかったかと思います」 「そうですか。なら良かったです」 口元を緩める。 この1ヶ月で初めて見た恐らく笑みらしい表情に、目を丸くした。 のも一瞬で、すぐに固い表情となった倉木がこう続けた。 「これは姫宮さんのご意思を聞きたい事なのですが、次の研究段階として、服用していた薬を一旦中止し過ごしてもらい、その際の反応を知りたいと思っていまして。ご協力を願いたいのですが」 服用せずに過ごす。 前に疎かにしてしまって、御月堂に触れられたことで予定よりも早く発情期が訪れてしまった。 開発中の薬とはいえ、服用していたから御月堂と何度も触れ合っても何もなかった。 そんな無防備なまま彼と接触するのは恐ろしく思ってしまう。 「万が一のことがありますし、誰とも接触せず発情の症状が現れるのか知りたいのもありますので、2週間ほど外と遮断した部屋に過ごしてもらいますので、起こる可能性の面は心配せずにと思います」 安堵したのも束の間、提示された条件に我が耳を疑った。

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