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帰ってすぐさま安野に告げると、嘘でしょうと言わんばかりの裏返った声を上げた。
「そんなことを言ってくるなんて⋯⋯。薬の効果を確かめたいから仕方ないとは思いますが、それでも2週間も姫宮様にお会いできないなんて、どうにかなりそうです⋯⋯!」
目に涙を浮かべていた安野がわっと騒いだ。
安野は前々から誰よりも姫宮の身を案じていて、それを態度に示してくれているから、今回のことは特にそれがある意味安心するものだった。
自分はここに帰ってきてもいいんだと。
「安野さんが身を案じるのは分かります。しかし、これは避けては通れないものでしょう。ですから私達は姫宮様を送り出し、無事に帰ってくるのをただ祈って待つしかありません」
さめざめと泣いている安野の隣にいる今井がそう言ってきた。
姫宮自身も断れない状況であったから、ただそれに従うしかなかった。だから、安心して帰れるこの場所で待ってくれている人達のためにやり遂げないと。
「あと問題になる可能性を上げるとしましたら、その間に御月堂様が来られるかもしれないということですが」
家と会社の行き来に何があるか分からないからと、本当は袋田に送迎を任せたいと思っているが、それも御月堂に何らかの形で気づかれてしまうと思い、徹底的にやってきていた。
だから、今回のことに関してもどうにかこうにか気づかれないようにしなければならない。
「前回は2週間も経たないうちに来られましたが、それを最後にこの1ヶ月は来てません。もしかしたら来られる可能性がございますが、そうなった際の来ないよう対策を練らればなりませんね」
「さ、安野さんも考えてください」と泣きっぱなしの安野に話を振るが、「私も離れたくないですぅ」と言うだけで話にならなさそうだった。
今井はそれを具現化するように大きくため息を吐いていた。
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