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124.
受付で名前を告げると、受付の人が許可証を差し出しながらある場所を告げた。
それは慣れてきた研究室ではない場所。
恐らく倉木研究長も事前に言っていたと思われるが、いかんせん急にあのようなことを言われて聞く余裕がなかったのだ。
新しく行く場所を今度こそは聞き漏らさず返事をし、その部屋があるという階へエレベーターで行こうとした。
「あ、愛賀。おはよう〜」
「美澄さん」
先にエレベーター前にいた美澄が不意に振り返って、緩く手を振ってきた。
「おはようございます」と軽く頭を下げた。
「愛賀も今日いるってことは、別のところでやる治験に参加しているんだ?」
「はい」
「ってことは、今までよりもお金がもらえる美味しい話に釣られて?」
「えぇ、まあ⋯⋯そうなりますね」
「だよねぇ、ただ2週間好きなことをしていたらお金がもらえるなんて話、食いつかないわけがないよね〜。てか、愛賀は誠意を見せつけ⋯⋯っ」
ぶふっ、と吹き出した。
何故、姫宮が治験をしているのかと訊いた時、姫宮がそのような旨を言ったものだから、彼のツボにハマらせてしまったようだった。
姫宮としてはやはり、そこまで面白いことではないと思っているものだから苦笑いを浮かべることしかできなかった。
そんなやり取りをしている時、待っていたエレベーターが来たのでそれに乗った。
ある程度笑いが収まった美澄にふと訊いた。
「美澄さんは2週間も出られなくて、嫌だと思わないのですか?」
「いやぁ? むしろ自分の好きなことをして過ごせるのなら、最高なんだけど」
美澄はかなりのゲーマーで仕事よりもそれに全力を注ぎたいから、彼にとって今回のことは本当にありがたい話なのだろう。
分かりきっていた回答ではあったが、どこまでも自分らしさを持っていて動じないそんな彼に羨ましくも感じた。
自分もこうでありたいと。
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