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「何かご不明な点はございますか」
「いえ、大丈夫です」
「昼食時間は12時になります。その際には食事を運ぶ看護師が来ます。ですが、その間に何かありましたら、ベッドにありますナースコールで呼んでください」
「ナースコール⋯⋯」
男性が指し示したところをつられて見る。
押すのを躊躇うもの。
ふとそんなことを思った。
そう思うのは、遠慮しがちな性格が出ているせいだからだろうか。
「何か分からないことがございましたか」
「あ、いえ、大丈夫です」
「そうですか。では、この検診衣を着て過ごしてください」
持っていた見慣れた服を渡した男性は、「それでは私はこれで」と深く頭を下げ、去る男性の後を目で追った後、小さくため息を吐いた姫宮は、キャリーケースを引き、それをベッドの脇に置き、それから縁に腰を掛けた。
初めて来た場所なのに不安な感情に襲われる。
薄暗く、自由に寝られも、出られもしなかったあの場所よりも開放感や清潔感がある場所なのに、何故そう思うのだろう。
見慣れない場所、だからなのかもしれないが。
「⋯⋯着替えないと」
膝上に置いた検診衣を抱えて、立ち上がった姫宮はその足で風呂場のある部屋へと向かった。
監視カメラがある部屋では流石に着替えられないと、そして恐らく風呂場があるのだから必ずと言っていいほどある場所に向かうと、果たしてあった。
二畳にも満たない脱衣場には洗面所が入って真正面にあり、不安げな顔をする姫宮の顔が鏡に映し出されていた。
右側の扉を開けると、こちらも申し訳程度の広さに風呂場があった。
住まわせてもらっている家の風呂場に慣れてしまっているため、狭く感じられたが、本来姫宮にとってはちょうどいい広さだった。
この広さであれば、一人でゆっくり入れるから。
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