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128.
風呂場への扉を閉め、脱衣場で着替えた。
着替え終え、先ほど着ていた服を抱え、病室に戻ってきた姫宮はキャリーケースを開けてそれを入れた。
2週間は検診衣を着て過ごすから、この服はしばらくは着ない。
入れ違いに歯磨きセットやお風呂セット、それから編み物を取り出し、それぞれの場所に置いて行った。
歯磨きセットを置いた時、しんみりとした。
この隣には大河のと小口のが置いてあったのに今はない。
本当に一人なんだと突きつけられる。
2週間経ったら、本当に出られるのだろうか。
このままずっと出られないなんてことは⋯⋯──。
ハッとした。
あの会長が姫宮に対してあまり良くない感情を向けていても、あくまで研究に協力してもらいたいのと借金返済の足しにするためという利害の一致がある。
それに姫宮の意思なく、治験に参加することもそれから危害を加えることはないと安野も言っていた。だからそのようなことはしないはず。
出られない、と思っているからそのような思考になっているだけ。あの時とは違う。大丈夫。
軽く頭を振り、病室に戻った姫宮はそのままベッド縁に座り、置いていた編み物を手に取る。
治験を始めてからご無沙汰となってしまっていたものだから、手に馴染むまで少々時間がかかる。だが、今はそれをする余裕がある。
ゆっくりと少しずつ編んでいくうちにあの時の感覚を思い出し、何度も同じ順番に編んでいくと段々と速く編めるようになっていた。
大河の誕生日プレゼントとして江藤が懸命に教えてくれた編み物は、丁寧に教えてくれた甲斐もあって、段々と形になっていく過程が楽しく思えた。
あの時の感覚を取り戻そうと練習用に兼ねて編んでいるそれは、まだ弛みや解れがちらほらあるものの、大河にあげたプレゼントよりかは上手くなっているのではと、自画自賛してしまう。
しかし、もっと早めに取り掛かっていればもう少し見目の良い物をあげられたのにと思いつつ。
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