129 / 184

129.

出立するまでの間、大河から距離を取られている。 いつもと同じように接しているのに目も合わせず、こちらから近づいても、向こうが距離を離そうとする。 あの時、大河が言いたいことを分かってあげられなかったから、そうなってしまったのは痛いぐらい分かる。 この痛みは本当は母親のことが大好きで、だがどう接したらいいのか分からない時の、気まずい距離感の時と味わったものと同じだった。 小口は絶対に嫌っているわけではない。ただ自分自身に怒っているだけだと言ってくれたが、それでも言いたいことを分かっていれば、変わらずに抱きついてきたり、一生懸命話しかけてこようしてきていたはずだ。そう思うとここまで気分が沈んでいなかっただろう。 「あ⋯⋯」 毛糸から外れ、持っていた棒が床に落ちた。 その弾みで編んでいた箇所が解けていった。 前よりも上手くできたと自惚れたせいか。 いや、違う。 大河のことで集中できなかったせいだろう。 「大河⋯⋯」 今頃何しているのだろう。 ふと、ベッド脇のテレビ台に置かれている時計を見る。 大好きなアニメを観終わり、その絵を描いているかオモチャで遊んでいるのだろう。 大河に直接は言えてないが、小口が恐らく言っているであろう2週間も母親に会えないことに、大河は寂しがってないだろうか。 寂しがっていたらいい、と少し願望を入れ混ぜて。 棒を取ろうとした時、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。 「はい」と返事をすると「失礼します」と入ってきた。 「姫宮さんの様子が気になって来ました。顔色が良くないようですが、気分が優れないですか?」 傍からそう見えてしまうほどに顔に出てしまっていたようだ。 「いえ⋯⋯初めてのところで緊張しているかもしれません」 「そうですか。⋯⋯ですが、本当に具合が悪くなりましたら遠慮なくナースコールを押してくださいね」 「はい」 では、失礼しますと去る担当医の後ろ姿を見送った。

ともだちにシェアしよう!