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129.
出立するまでの間、大河から距離を取られている。
いつもと同じように接しているのに目も合わせず、こちらから近づいても、向こうが距離を離そうとする。
あの時、大河が言いたいことを分かってあげられなかったから、そうなってしまったのは痛いぐらい分かる。
この痛みは本当は母親のことが大好きで、だがどう接したらいいのか分からない時の、気まずい距離感の時と味わったものと同じだった。
小口は絶対に嫌っているわけではない。ただ自分自身に怒っているだけだと言ってくれたが、それでも言いたいことを分かっていれば、変わらずに抱きついてきたり、一生懸命話しかけてこようしてきていたはずだ。そう思うとここまで気分が沈んでいなかっただろう。
「あ⋯⋯」
毛糸から外れ、持っていた棒が床に落ちた。
その弾みで編んでいた箇所が解けていった。
前よりも上手くできたと自惚れたせいか。
いや、違う。
大河のことで集中できなかったせいだろう。
「大河⋯⋯」
今頃何しているのだろう。
ふと、ベッド脇のテレビ台に置かれている時計を見る。
大好きなアニメを観終わり、その絵を描いているかオモチャで遊んでいるのだろう。
大河に直接は言えてないが、小口が恐らく言っているであろう2週間も母親に会えないことに、大河は寂しがってないだろうか。
寂しがっていたらいい、と少し願望を入れ混ぜて。
棒を取ろうとした時、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。
「はい」と返事をすると「失礼します」と入ってきた。
「姫宮さんの様子が気になって来ました。顔色が良くないようですが、気分が優れないですか?」
傍からそう見えてしまうほどに顔に出てしまっていたようだ。
「いえ⋯⋯初めてのところで緊張しているかもしれません」
「そうですか。⋯⋯ですが、本当に具合が悪くなりましたら遠慮なくナースコールを押してくださいね」
「はい」
では、失礼しますと去る担当医の後ろ姿を見送った。
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