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「ほとんど口にされていないようですが、どこか具合が悪いところが⋯⋯?」 「いえ、そういうわけではないのですが⋯⋯すみません」 「ベッドにいますとあまりお腹が空きませんもんね。仕方ありません」 気にしないでというような口調で先ほど運んできた看護師は、ほぼ残してしまった食事を乗せた配膳車を押して去って行った。 怒られはしなかったものの、きちんと食べられなかった罪悪感を抱えることとなった。 夕食はきちんと食べよう。 そう決意した姫宮は、何とか気持ちを切り替え、編み物の続きをし始めた。 半分ほどできた胴体部分は編み慣れてきたようで、編んでいくにつれ、弛んだり解れる箇所が減ってきていた。 この調子で上手くできれば出来の良い物をあげられる。 編みぐるみばかりではつまらないだろうから、江藤のように手袋だったりと、他の物に挑戦してみたい。 頑張って練習して大河を喜ばせたい。 昼食の後、お腹いっぱいになったからだろう大河はお昼寝をすることがあった。 うとうとしている大河を寝かしつけ、されどまだ姫宮と話したいのか抵抗する我が子に「今は寝ようね。起きたらたくさん話そうね」と宥めて、素直に眠ったのを見ているうちに自分もいつしか寝ることもあった。 習慣の一つであったそれを今日はどうしているだろうか。今日は無理にでも起きているのだろうか。 それともあの子は一人では眠れないから、小口と寝ているのだろうか。仕方ないといった具合に。 くすっと笑みを零した。 そうだったらいい。 自分も寝てしまいたい。 寝てしまえば余計なことを考えることも、一日が短く感じられるかもしれない。 だが、やはり緊張しているからか眠気がやってこない。 今は大河の喜ぶ顔を浮かべながら編み進めるしかない。

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