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138.
目が覚めるような日差しに照らされた真っ白な病室。
その病院ベッドの上でその光景とは不釣り合いとも思える、しくしくと泣いていた。
嗚咽を漏らすほどあまりにも悲しい出来事があったはずなのに、それが何なのか分からない。
けれども、この涙の理由を分かってはいけないような気がした。
ずっとそうしていると、ガラッと扉が開いた。
顔を上げると入ってきたのは、白衣を着た男性。しかし、知らない人だった。
急な訪問に驚きの感情よりもぐわっと湧き上がる憎悪の感情。
身体が熱くなるほどに湧く黒い感情は、その男性を見るなり言葉にしてぶつけた。
「僕の赤ちゃんを返して!」
飛び上がった。
息をするにも苦しいぐらい心臓が痛いぐらい早く鳴り、息が上がっていた。
不愉快なほどにぐっしょりと汗をかいている。
頬に汗かと思ったそれは、もしかしたら涙らしいものが伝った。
何だったのだろう。
今はもうおぼろげな記憶となってしまった夢の出来事。だが、あの感覚は知っている。
病室が嫌だと思っている原因と直結しているようだった。
思い出したくないもの。
「姫宮さん、おはようございます。寝られ──えっ、どうされましたかっ! 具合が悪くなりましたか!」
いつの間にか入ってきていた看護師が驚いた顔をして駆け出し気味に姫宮の元へ来て、額に手を触れた。
「いえ⋯⋯。⋯⋯少し寝苦しかっただけですので⋯⋯」
「⋯⋯少し熱があるかもしれません。先生を呼んで──」
「呼ばないでっ!」
急ぎ足で行こうとする看護師が振り向きざまで酷く驚いた顔を見せたことで、気づけば発した言葉に狼狽えた。
どうしてそんなことを。
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