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担当医と看護師は軽く下げ、去っていくのをまだ夢を見ているようなぼんやりとした目で見ていた。
だが、一人になった時、視界が潤んできた。
迷惑を掛けてしまっている。
オメガのために抑制剤を開発してくれた人達にとっては、とても貴重な存在であるのに、こんな第二の性である自分が、少しでも人の役に立てる機会であるのに、余計な手間を掛けてしまっている。
熱を出してしまったら、怒られる。食事を抜きにされてしまう。
自分が悪い。管理を怠ったせいだ。
ぽろぽろと涙が一粒一粒零れ落ちる。
こんな思考になってしまっているのは、熱のせいで心が弱っている証拠だ。
今の自分に罰を与えるほどに怒りをぶつける人はいなく、むしろ自分のことのように心配してくれる人達なのは分かっている。こんなにも感傷的になるのは熱のせい。
通知音が鳴った。けれども、見る気力がなかった。
こうやって気にかけてくれている人がいるのに最低だ。
こうしている間にも汗で張り付く服がどんどん冷たくなっていくのを感じた。
その影響で寒気のようなものを感じる。
それなのに頬が火照っているような。
さっきよりも熱が上がっていっているのか。
嫌だ。こんなところで終わらせたくない。
御月堂の母である会長にこれ以上悪く思われたくない。
とりあえず、着替えないと。
置かれていた替えの服を、重だるい手で抱え、ベッドから降りようとした。
だが、足も同様に力が入っておらず、踏みしめることができず、床に倒れ込んだ。
ズキズキとした痛みが広範囲に伝わる。
顔を歪めた。が、起き上がる気力はなかった。
急にどうでも良くなった。もう、疲れた。
誰かが慌ただしく入ってきた足音と声が遠のいていく──。
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