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145.※
会長の秘書・梅上の案内の元、向かっている最中、御月堂は表情こそ出さないものの頭の中では混乱を極めていた。
何故、会長が愛賀のことで話があるというのか。
あの事件の被害に遭ったことから、心のケアが必要だと新しい住まいで安静にさせている。後のことはこちらに任せて欲しいと言った。
だから、これ以上のことは首を突っ込まないと思われていたのだが。
梅上がある部屋の前に立ち止まる。
社長室へと繋がる扉とさほど変わらないそれは、しかし御月堂にとっては歩むのを躊躇うものだった。
梅上がコンコンと扉を叩く。
「会長。社長を連れてきました」
「入りなさい」
事務的な淡々とした口調で返してきた。
途端、御月堂は顔を強ばらせた。
梅上はそれに応え、扉を開く。
「失礼します」
中にいる者に一礼した後、扉に身体を寄せ、御月堂が先に入るために空ける。
御月堂もまた「失礼します」と一礼した後、部屋へと足を踏み入れる。
部屋の奥、窓の外から照らされる日差しを背に、悠然とした態度で座る初老の女性が歩み寄る御月堂を読み取れない感情で見据えている。
血縁関係は親子であるが、産まれてから越えられない存在の一人である血の繋がっているだけの上司と部下のような関係だった。
「何かご用でございますか」
同じ眼差しを持つ会長に問いかけた。
「貴方が依頼した元代理母についてです。あの方はあのようなことがあったことから、今の住まいを与え、療養という形で過ごしているのでしたよね」
「ええ、はい。そうですが」
「ただ依頼した者と受けた者という関係でしたよね」
「⋯⋯ええ」
「それなのに何故、あの被験体は貴方のことを「慶様」と呼び、来るよう訴えているのですか」
「は⋯⋯?」
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