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愛賀はあの家で取り合いになるほど、認めたくはないが同じくらいに好んでいる世話係と、同じ血を引く子どもと共に穏やかに暮らしているはずだ。
一応の報告として新しい住まいの場所は伝えておいたが、それにしても会長と会う機会なんてないと思われる。
外に出るのは大河を連れて行くぐらいだと聞いていたが、その際に何らかの事故に巻き込まれ、入院したのだろうか。
そう思った瞬間、血の気が引くような嫌な想像をしたが、その考えを切り捨てる発言を目の前の人間は言っていた。
「愛⋯⋯姫宮に何をさせたのですか」
「我が社の抑制剤開発の協力に」
目を見開いた。
「前よりも安全性や副作用が限りなく少ないものを開発できたとしても、その効果を確かに分かる者がなかなかいません。特にオメガは希少と呼ばれる存在です。ですから身近にちょうど良い被験体がいたので、協力してもらいました」
「それは本当に本人の意思を聞いて、協力してもらったのですか」
「それはもちろんです。そうでなければ我が社のイメージが悪くなりますから」
それは当然のことといえよう。長年トップの座に着いているというのにその些細なことで綻び、崩されるわけにはいかないのだから。
だが、嘘だ、と御月堂は思った。
愛賀は自分に価値がないと思っている。だから、彼の弱みを握らせるようなことを言って、本人の意思で言っているように誘導したのだろう。
何をチラつかされたんだ。
「そこまで性急にしなくても良いはずだったかと思います。それに人によって緩和する頃合いが異なると思います。それなのにそのような負担がかかることをさせていたのですか」
どんな理由であれ、愛賀を我が社の利益のために犠牲になるようなことをさせるなんて許さない。
しかし、感情に身を任せていては会長に見透かされてしまう。だから、なるべく平常心で感情に動かされてない風に装う。
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