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147.※
見透かすような目で見ていた会長が一瞬伏せた後、再び目を向けた。
「精神面はそうですが、現実面ではそうも言ってられなくなりました」
それは一体どういうことなのか。
言い知れぬ緊張感が高まる。
「姫宮愛賀という方がどういう人物なのか分かってますか」
どういう人物。
ふっと目線を外す。
代理母していた時は、真面目に仕事をこなしているというそれだけの印象だった。自分としてもただ後継ぎを代わりに産んでくれればそれで良かったと思うぐらいに。
しかし、松下に促されて仕事の合間に会っているうちに不意に見せる微笑みにも似た表情を始め、自分に自信がなく控えめなところはあるが、それでも最近は少しずつ自分のしたいことをし始めたり、御月堂に対しては好きだということを態度で示してくれたりする。
あと子どものことが本当に大好きでよくその話題をし、その際の楽しそうに話すところが愛おしく感じられる。
閑話休題。
愛賀がどういう人物なのかは分かっている。しかし、先ほどの依頼した者と受けた者という枠を超えた関係だとはっきりと断言されてしまうだろう。
今、そのことを話題にするべきではない。
「ただ言われた通りに後継ぎという大事な仕事をやり遂げようとした、真面目で誠実な青年だと代理出産の時そう思いました」
「それよりも過去のことは?」
「過去のこと⋯⋯」
愛賀は自分がオメガだからと卑下し、そのこともあってか自分のことをあまり話したがらない。
再会した際の顔の傷もこちらが想像し得ない、それに関したことかもしれない。
それも含めて松下を通して調べさせようと姑息な手を使おうとした。
しかし、本人が頑なに話そうとしないのにそんなことをするのはいかがなものかと思い、本人が話そうとするその時まで待っていようと思い留まる選択肢をした。
たとえ、話さずとも良いとも。
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