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「正直に申し上げますと、過去のことは存じ上げません。しかし、過去のことを知らずとも仕事関係に過ぎない者にそれ以上の情報は不必要かと思います」 「そう断言するのは、これから話すことを聞いてから決断するべきです」 恐らく本題と思われるもの。 会長が言っていた現実面とは何なのか。 「代理出産として雇う際に、その方の履歴書を提出してもらい、目を通しましたが、その時は申し分ないと思われてました。しかし、今回の事件をきっかけに小野河被告と接点があった点から梅上に調べさせてみたら、大きな嘘があったようです」 「嘘⋯⋯?」 鳴り止まない心臓の音が最骨頂になる。 自分としてはあくまで冷静な表情で返したが、微々たる動揺しているというその僅かなことさえも見逃してない目をしている会長が次の言葉を続けた。 「姫宮愛賀という人物は、15歳から18歳までの間、性風俗で働いていたようです。しかも違法の」 瞳孔が揺れた。 ニュースで観たことがある。 主にオメガの未成年を違法性風俗店で働かせ、人権を無視した非人道的だったということを。 実際に栄養失調や腹上死などあまりにも悲惨な結末を迎えた者もいたという。 だがそんな悲惨なことが起きたとしても、どこか非現実的だと思っていた。 それが現実だと突きつけられている。 愛賀がそのようなところで。 じゃああの時見た身体中の傷は⋯⋯。 「オメガの方がどの性よりも妊娠率が高い点から、苦肉の策であった代理出産という形で、それでも後継ぎを代わりに産んでくれるならと思いました。しかしそのような環境にいたのなら、結果的に出産してもらわなくて良かったと思います。ですので、治験という形で彼にかかった金銭面を彼自身に埋め合わせしようとしていたところです」 あくまでいつも通りの仕事のことを言うように事務的に事を説明する会長に、最後まで話を聞いていられなかった。 今回の抑制剤はオメガ専用のものだ。だから、それを大まかな建前にして愛賀を心身共に負担を掛けさせたのだろう。 本音は結局オメガという性を嫌悪に思っているから、早々に追い出そうとしたのかもしれない。

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