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153.※
不安が解消されたのか、はたまた熱の影響で起きているのも辛いのだろう。返事した後、ふっと目を閉じ、小さく寝息を立て始めた。
「⋯⋯⋯」
親指で頬を撫でる。
──慶様にも⋯⋯っ
私に何も役に立ってないというのか。
そんなわけがなかろう。
「⋯⋯いるだけで役に立っている」
親同士で決められた互いの会社の利益のための婚姻は、ただ後継ぎを作るためだけの書面で交わした赤の他人だった。そこに愛情というものも存在しなかった。
自分の両親もそうであったから、それが当たり前だと思っていた。だが、そうではなかったのだと気づかされた。
自分に愛を求め、きっと自分よりも知っている愛をくれ、それが暖かいものだと心地よく感じられた。
その人としての感情を教えてくれた愛賀が何の役に立ってないというのか。
「私にとっては十分なものをくれているというのに」
もっと存在そのものが大いに役に立っていると言葉で示すべきか。それとも行動で示すべきか。
その行動も、最難関を突破しなければ実現できないものだ。
「どうしたものか⋯⋯」
頭を抱えていたが、やがて今すべきことに即座に頭を切り替えた御月堂は上着のインサイドポケットから携帯端末を取り出しつつ、腰を上げようとした時だった。
「ん⋯⋯んん⋯⋯」
聞き逃してしまいそうな掠れた声で、愛賀が御月堂の手を自身の手に添えて頬に擦り寄せるような仕草をした。
一瞬、起きているのかと思えるような行動に目を閉じている様子から違うのだと思ったが。
「⋯⋯⋯」
クリスマスの時、メッセージを送ったことに気づかないでいた愛賀が本当に御月堂なのかと頬を包み込むように手を添えて訊ねてきたことを思い出す。
愛賀の言動から今も似たような状況だ。それに頬に添えた時、嬉しそうな反応を見せたことからこのままにしておいた方が良いと判断し、電話を掛けようとしたのをメッセージアプリにし、愛賀の状況を伝えた。
相手は安野だ。
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