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156.※

愛賀が再び目が覚めたのは夕日が沈む頃だった。 「起きたか。何か口に入れるか」と訊ねるが、ぼんやりとした様子で返答がなかった。 元々低血圧なのかと思ったが、熱の影響もあって頭が冴えないのだろう。反応があるまで待つことにした。 しばらく経った後だろうか。愛賀を撫でている間に気を利かせた看護師が持ってきてくれていたタオルで髪や顔を拭いていると、ゆっくりと目が動いた。 「⋯⋯けい、⋯さま⋯⋯」 「どうした。何か欲しいものがあるのか」 「⋯⋯治験を、したいです⋯⋯」 思ってもみなかった言葉に出来る限りの要望を答えようとした口が小さく開いたまま固まってしまった。 「⋯⋯何故」 「⋯⋯やらなければ、なりませんので」 「そのようなことをするよりも愛賀は熱を出しているだろう。何も急ぐ必要はない」 「このぐらいの熱⋯大したことはありません。⋯⋯それよりも治験を⋯⋯」 「愛賀っ」 起き上がろうとし、しかしふらつく愛賀を肩をがっしりと掴んだ。 「そんな状態でできるわけがないだろう。それ以前に治験なぞしなくていい。会長に⋯⋯あの母に何か言われたのか」 「⋯⋯」 びくっと震わす肩が手に伝わる。 会長が何か言わなければ、起き上がることもままならない愛賀が自責を感じ、うわ言のように治験の再開を望むことを口にしないだろう。 「⋯⋯私がいけないんです。私がいるだけで、慶様に迷惑を掛けてしまうんです。⋯⋯だから」 「⋯⋯私に何の迷惑が掛かるというのだ」 「⋯⋯⋯」 躊躇うように、あるいは涙ぐむ瞳から察して溢れる感情を堪えるように唇を噛んでは震わせている。 そのような様子を見てしまったら、普段あれば「もういい。これ以上言わなくていい」という言葉が出てくるが、今は何故自分に関係があるのか、あの会長に関してならば尚更その理由を問いただしたく、愛賀の次に来る言葉を待った。

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