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157.※

しばしの間の後、愛賀が葛藤していた口を小さく開いた。 「⋯⋯入院費も、私が払いますので⋯⋯」 その声は震えていた。恐らく抑え込んでいた感情が溢れてしまったのだろう。 言った直後、抑え気味に小さく嗚咽を漏らしていたのだから。 それを自分なりに慰めてあげたかった。が、今はそれをする余裕がなかった。 未成年にはそぐわない劣悪な環境で、きっと強制労働させられていたのであろう過去があったことから、愛賀に掛かった金銭を自身で働かせることで埋め合わせしようとしていた。 愛賀が自ら望んでそのようなことをしていない。本人にもそう言い聞かせた。だから、今の状態の身体に鞭を打ってすべきでも罰にも等しいそれを受けるものではない。 「愛賀自身が払うものは一銭もない。今回の治験の際に体調を崩した場合の入院費も治療費もこちらが支払うべきものだ。今の住まいに関しても与えたのは私だ。だから何もかも愛賀が負うべきではない」 「⋯⋯でしたら、私は⋯⋯何を、あげれば⋯⋯」 「私に愛を教えてくれただろう」 一粒、二粒と零しては布団を濡らしていた涙が止まり、こちらに顔を上げた。 潤む瞳が泣いていた証拠をこの目に映し出している。 「前に私はその感情を知らない、だから愛賀にそれを教えて欲しいと教え乞うた。そしたら愛賀は愛賀なりの愛情で接してくれた。笑いかけることも、好きだと言ってくれることも、そして口を重ねることも、そういった愛情表現で接してくれた。私には充分なものを愛賀はくれた」 驚いたように目を開く。その瞬間、溢れそうになっていた涙が一筋流れた。 「それでいいんですか⋯⋯?」 「ああ。だから愛を示してくれ」 目を細め、微笑みを見せた時、次から次へと涙が零れた。 それがきっかけに表情が晴れたように思えて、その表情が今まで見た顔よりも美しく愛おしく感じられた。

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