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160.※姫宮視点
早々に退院手続きを済ませ、病院を後にした二人は、御月堂が呼んでおいた車に乗り、帰路に着いた。──のだが。
「愛賀。私の首に手を回せ」
「⋯⋯? はい⋯⋯」
先に降りた御月堂が前屈みになりながらそう言い、何故そのようなことを言うのだろうと思いつつも、その通りにすると、御月堂が姫宮の腰や膝裏に手を添えたかと思えば、そのまま抱き上げたのだ。
急なことに心臓が飛び上がり、小さく悲鳴を上げた。
「すまない。怖かったか?」
「あ、いえ⋯⋯何故、このようなことを⋯⋯」
「さっき病室から車に乗る際にも足取りがおぼつかなかったからな。この方が効率が良いと思ったのが」
「⋯⋯そうでございましたか」
熱のせいでふらついて、まともに歩けてない自覚はあった。
治験を行っていた場所から外に行くまで大した距離ではないと思っていたのが、やっとの思いだった。
確かにこうしてもらえれば効率良くは思われるが。
「⋯⋯お手を煩わせてしまい、申し訳御座いません」
「礼を言われる方がした甲斐がある」
「⋯⋯ありがとうございます」
「ああ」
途端、満足気に口元を緩ませた。
姫宮の役に立てて嬉しく思っているその表情に、彼に身を任せようと身体を預けた。
「岩井。二日後の12時頃に迎えに来てくれ」
「かしこまりました」
専属の運転手が御月堂に深く一礼すると、御月堂はそれを一瞥した後、「行くぞ」と言って、エントランスに向かった。
姫宮はもやがかかっている頭で考えた。
二日後⋯⋯。
「慶様は⋯⋯今日、お帰りにならないのですか⋯⋯?」
「そのつもりでいるが、何か都合が悪いか」
「都合悪く、は⋯⋯ありませんが⋯⋯」
一晩どころではない、明後日までいるつもりの御月堂がいることに嬉しくもあるが、やはり仕事の方は大丈夫なのかと心配になった。
いいのだろうか。
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