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鳴らしてすぐに中から慌ただしい足音が近づいてくる。 かと思えば、玄関近くで止まった。 どうしたのだろうと、思わず御月堂と顔を見合わせる。 と、その直後、ガチャと玄関が開かれた。 「御月堂様、姫宮様、お帰り──あらまぁ! そのような形で帰って来られるとは思いませんでした」 「愛賀が歩くこともままならないから最善策にだ」 「姫宮様が羽織っている上着もそのうちの一つでしょうか?」 安野が指摘したもの、それは御月堂が着ていた上着だ。 病室で何とか私服に着替えたものの、外のせいではない寒さを感じ、車内で手を擦り合わせていた時、御月堂が「寒いのか」と言って、肩に掛けてくれたものだった。 ちなみに御月堂はコートを羽織るから大丈夫だと言った。 「熱のせいで寒気を感じていたからな」 「そうですか⋯⋯。そういうことにしておきますね」 ふふ、と口元に手を添えた安野が微笑ましそうにしていた。 その意味が分かった瞬間、赤くなった頬をその話題となっている上着で隠した。 「それよりも家に入れてくれないか。あと下に行って愛賀の荷物を岩井から受け取ってくれないか」 「それは申し訳御座いませんでした。中にお入りください。荷物は私が責任持って、取りに行きますね」 安野が玄関の扉を開けてくれ、共に中に入った時だった。 「あ、姫宮さま、おかえりなさい」 「ま⋯⋯っ」 玄関先で待っていた小口に抱き上げられていた大河が、「ママ」と思しき言葉を途切れ途切れに発しながらこちらに目一杯両手を伸ばしていた。 ほんの数日の間であったのに久しぶりに見るような感覚に、思わず涙がじんわりに溢れていた。 「大河⋯⋯ただいま」 気を使って御月堂が腰を下ろしてくれたことで、大河との距離が近くなり、小口に下ろされた大河のことを抱きしめようとしたが、何故か急に顔を顰めた。 しかも、御月堂に向かって。

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