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小口が扉を開けてくれた先、主にベッドぐらいしか置かれてない殺風景な部屋ではあるが、見慣れていた景色にようやく肩の緊張が解れたようで、思わずため息が漏れていた。
ベッドにこれでもかと慎重に下ろしてくれた御月堂にお礼を言うと、頭を撫でてくれた。
「夕食の準備をしていた最中だったんですけど、姫宮さま何か食べます?」
「食べたいですね⋯⋯。朝から食べてなかったので⋯⋯」
「そうだな。一口でも食べておかないと薬も飲めないからな」
そうだった。そういえば、抑制剤を飲まずどんな副作用が起こるのかという治験の最中だったため、服用してなかった。
今のところはアルファである御月堂のそばにいても何の変化も見られないが、これ以上一緒にいたら取り返しのつかないことになるかもしれない。
薬を飲めば大丈夫であろうけれども。
その時、扉を叩く音が聞こえた。
御月堂が代わりに返事をすると、「失礼します」と言って安野が入ってきた。
「姫宮様の荷物を持ってきました」
キャリーケースを持ち上げて、そばに置いた安野に「ありがとうございます」とお礼をした。
「姫宮様、恐らくまだ食事をなさってませんよね。後ほど持ってきますね」
「それさっきわたしも聞きましたよー」
「あら、そうでしたの。それは失礼しました。後は何か必要なものはございますか?」
「いえ特には⋯⋯」
「では、私は失礼します」
「じゃあ、わたしも。大河さまもママさまに構ってもらいたいでしょうけど、具合が悪いのですから、出て行きますよ」
「⋯⋯」
ベッド上に座って、こちらのことをじっと見つめていた大河がそう言われた途端、むぅっとむくれた顔をした。
本当は甘えたいのだろうけど、母親がこのような状態であるから、甘えようにも甘えられないのも加えてそう言われて怒っているといった具合か。
姫宮としても、思う存分構ってあげたいがこのままずっといたら大河も具合が悪くなってまうかもしれない。
心苦しいが、ここは小口が言うようにしてもらわないと。
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