165 / 184

165.

「大河。小口さんが言う通りママ構ってあげられないし、もしママのがうつって大河も熱を出したら嫌だから、部屋から出て行った方がいいかもしれない。ごめんね⋯⋯」 「⋯⋯」 頬を膨らませて、姫宮に訴えるようにじっと見つめていたが、不意にベッドから下りると一目散に部屋を出て行った。 一応は聞いてくれたようだが、やはり心苦しい。 「では、私達はこれで」と安野と大河を追いかけるように小口が出て行った。 「今の言い分だと私も出て行った方がいいかもしれないな。大河にまた怒りを買う」 「⋯⋯あと、治験が、抑制剤を服用せずに様子を見るものでしたので、慶様がいたらもしかしたら⋯⋯いて欲しいですけど⋯⋯」 「その話は聞いた。中止だと判断した時に担当医がすぐに投与したようだ。その点は心配ない」 「そうでしたか⋯⋯」 もしかしたら、倒れた際に投与してくれたのかもしれない。即座の判断をしてくれた担当医に心の中で感謝し、安堵した。 「では、そうだな⋯⋯服を着替える口実にしておこう。しかし、愛賀。一人で着替えられるか?」 病室でもいつもよりも時間をかけて着替えていたために危惧しているのだろう。 だが、時間をかけてでも着替えだけは一人でどうにかしたかった。 「慶様にお手を煩わせてしまうわけにはいきませんので⋯⋯」 「そうか⋯⋯だが、無理そうであれば呼んでくれ」 「はい⋯⋯」 立ち上がりながら頭を撫でてくれた御月堂が、「じゃあ、一旦出るからな」と念押しし、されど後ろ髪を引かれるようで、肩越しに見ながら部屋を後にしていた。 行かないで、と大きな背中に飛びつきたい衝動に駆られたが、その思いを断ち切り、寝巻きをクローゼットから取り出そうとベッドからゆっくりと下りた。 その際、肩に掛けていた御月堂の上着がはらりと落ちた。 そういえば借りたままにしていた。 それを手に取り、一瞥した後、鼻に近づけようとした。

ともだちにシェアしよう!