166 / 184
166.
が、今はこんなことをしている場合ではないと、我に返り丁寧に畳んだ後、改めてクローゼットから下着と寝巻きを取り出し、重だるい手で時間かけて着替えた。
「⋯⋯」
小さく息を吐いた姫宮はベッドの縁に腰をかけ、畳んだ上着を手に取っては胸に抱いた。
「慶様⋯⋯」
ついさっきまで感じていた彼の温もり。
今ではすっかり無くなってしまったかのように冷えてしまい、自分だけの温もりしか感じられないと思った瞬間、寂しさを覚えた。
大河にああ言ってしまった手前、御月堂自身も出ないと不公平だとまた怒り出すから仕方のないことだけれども。
今はともかく大人しく寝ているべきだと、再び布団に潜り込んだ時。ポケットからベッド上に置いていた携帯端末のバイブ音が聞こえた。
即座に御月堂からかと思い、手に取った携帯端末を見ると美澄からだった。
『愛賀まだ起きてる? 俺、明日辺りに治験を辞めることを言おうと思ってる。耐えきれなくて』
この騒ぎで美澄に熱を出して中断したことを伝えてなかった。
『実は熱を出してしまいまして、中断して家で療養してます』
何とか打ったメッセージを送った。
するとものの数分で送られてきた。
『えっ、そうだったん? 大丈夫? 何か買ってこようか?』
さっき安野にも似たようなことを言われた。
当たり前かもしれない気遣いに、ふっと頬が緩んだ。
『いえ、大丈夫です』
『そっか。お大事に〜』
美少女キャラがお大事にのセリフと共にお辞儀しているものが送られてきた。
『ありがとうございます』と送り、友達欄の画面に戻り、『慶様』の文字を見つめていた。
着替え終わったから、大河に見つからないようこっそり来て欲しい旨を伝えようとしたが、やはり良くないかと思い、触れようとした指を止め、抱きしめたままの上着に顔を埋め、存在を確かめるように瞼を閉じた。
ともだちにシェアしよう!

