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170.※
「大河さまもお母様のためにやってあげようとする姿勢はえらいと思います。ですが、包丁は危ないですので、そちらは御月堂様に任せます」
「ああ、分かった」
「じゃあ、私は卵を溶いたり、鍋に出汁など準備しておきますね」
「お願いします」
江藤がその隣で作業をし始めるのを横目に、安野が「こうやってくださいね」と手本を見せた後、包丁を手渡された御月堂は、安野と同じように包丁で切ろうとした。だが、上手く切れない。
「御月堂様。ただ押しているようですが、その後引かないと切れませんよ」
「そうなのか」
竹輪に包丁を当て、引いてみると確かに切れた。
小さく息を吐いていると、「切れましたね」と声を弾ませて言った。
「その要領で切っていってください」
「ああ」
先ほどのように切っていった。が。
厚めであったり、逆にあまりにも細かったりと極端な出来上がりになってしまった。
「⋯⋯初めて包丁を握ったのですから仕方ないですよ」
「これはまあ、よく頑張りましょうと言ったところでしょうか」
「⋯⋯⋯」
少し離れたところで小口と見ていた大河がやりたそうに手を伸ばしたのを、「さっき危ないって言われたでしょー」と後ろから抱き上げた小口に引き離されていた。
が、そうされたのが不満そうで腕の中で暴れ出した大河を「暴れたら、ママさまのために作ってあげるのは終わりにしますからね。あー、ママさまかわいそう」と大げさに言う小口に、不満そうな顔のまま素直に暴れるのを止めた。
「⋯⋯小口、お前意外と窘めるの得意なんだな。要らぬ言葉がなければ完璧だ」
「お褒めに預かり光栄です。人様に余計だとよく言われますが、本当のことですし、言ったことで気づかされることもあるんですよ」
「⋯⋯⋯」
そうなのかと疑いの目を向けていたが、「喋ってないでちゃちゃとやりましょうよ」と促され、納得がいかないまま、今度はネギを切った。
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