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172.※

「愛賀、お粥を持ってきたぞ」 小口が何気なく扉を開けてくれていたことも軽く礼をしつつ、愛賀の元へ行った。 先に行っていた大河がそばに座り込み、横になっていた愛賀と話していたようで、御月堂が声を掛けた時、こちらに目を向けた。 「慶様⋯⋯」 重だるそうに身体を起こす愛賀を、お盆をサイドチェストに一旦置いた後、起こすのを手伝ってあげた。 「ありがとうございます⋯⋯」 「このぐらいどうでことはない」 恐らく切ることに苦戦していた間に誰かが用意してくれていたのだろう頭を置いていた箇所に氷枕、額にはシートが貼られていた。 「お粥を持ってきたが、食べれそうか?」 「はい⋯⋯」 サイドチェストからお盆ごと手に取ったそれを、愛賀の膝上に乗せた時、そのままベッド縁に腰掛けた。 「お粥⋯⋯慶様が作ったのですか⋯⋯」 「私は竹輪とネギを切ったぐらいだ。恥ずかしいことに今日初めて包丁を握ったものだから、大きさがバラバラなのだが⋯⋯」 改めて見ると酷い出来だ。 あまりにも不格好なそれらを見ていられなくて、そっと目を逸らす。 「ふふ、そうなのですか」と愛賀は控えめに笑った。 「⋯⋯食べますね」 小さくいただきますと手を合わせた愛賀がレンゲを持ち、半口分掬った。その中に薄くなった竹輪が乗せられていた。 控えめに吹きかけ、口に運んだ。 「美味しいです⋯⋯」 口元に手を添えた愛賀がふわりと微笑みかけた。 味付けや米の具合は江藤がやってくれたものだが、その顔を見た時、申し出て良かったと御月堂も笑い返した。 「ま⋯⋯ま⋯⋯」 その時、静観していた大河がベッドに座ったかと思えば、愛賀が持っていたレンゲを取り、それで掬って愛賀に差し出してきたのだ。 急な行動にどうしたのかと御月堂は首を傾げていたが。

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