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「私、ここまで想ってくださる方に会えるとは思いませんでした。ずっと誰も信じられず、ずっとこのまま独りで生きていくと思ってました。そんな人間が今は少しでも独りになったら寂しく感じるぐらいになってしまうだなんて、分からないものですね」 くす、と姫宮なりに冗談っぽく言ってみせた。 だが御月堂は表情を変えず、眉だけを僅かに寄せ、姫宮のことを見ていた。 それに対してたじろぎそうになったが、それでも御月堂の目を見つめ返した。 「想ってくださる方がいるからこそ、私もいつまでもこのままでいるわけにはいかないと思ったのです。会長は私のような者に何言ってもお気に召さないと思います。ですが、私の言葉で伝えたいことは伝えたいと思いまして」 いつまでも誰かに守られているばかりでは、今回のことをなきにしても自分で何も出来なくなる。 ひ弱で痛みも恐怖も知らずに優しくて温かい場所で過ごしてもらいたいのかもしれない。だが、いつまでもそのような環境で過ごすわけにはいかない。 痛みも恐怖にも打ち勝たなければ、それこそ御月堂の隣に並ぶにはふさわしくない。 「⋯⋯⋯」 御月堂は何か言いたげに口を開きかけた。しかし、薄く口を開けたまま何か言ってくることはなく、何やら考えている様子だった。 それをただじっと見つめていた。 肯定か、否定か。 どのくらいの時間が経ったのかと思うぐらいの体感の後、御月堂は改めて口を開いた。 「⋯⋯私はいつまでも愛賀が安心して温かい環境で、辛いことも恐怖を感じることがないところでいて欲しいと思っていた。だが、それがかえって愛賀には良くないことだと思い知らされた。だから、愛賀。お前がお前の言葉で会長に伝えたいことがあるならば、そうした方がいい。お前の意見を尊重する」 「⋯⋯! ありがとうございます」 肯定的な言葉に、驚きで目を見開いた姫宮は嬉しさをお礼として伝えた。 「だが、この条件は呑んで欲しい」 ぱっと笑みを見せた顔も一変、顔を強ばらせた。 何を言われるのか。 高まっていく緊張の中、御月堂はこう言った。 「会長と会う際には私も同行させてもらう」

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