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隣に立つスーツ姿の御月堂。 スーツ姿の彼を見るのは、見慣れた光景であるはずなのに今は格段に良く見える。 それは着せられているスーツ姿の自分が隣に並んでいるからだろう。 自信を無くしそうになる。が、今はそのことで落ち込んでいる場合じゃない。 しっかりしないと。 早まる鼓動の上に握り拳を置き、それから改めて目の前の扉を見つめた。 二人の前にいた梅上が扉を叩いた。 「会長。社長と姫宮様がお見えになりました」 「入りなさい」 久方ぶりに聞いた感情が感じられない声音。 であるのに幾分か凄みのようなものを感じるのは、これから言うことに否定されると恐れを抱いているからだろうか。 でも、今回は譲れない。 扉を開けた梅上に促されるがままに、自然と目が合った御月堂に小さく頷いた後、彼を先に「失礼します」と軽く一礼したのを倣い、続けて入った。 部屋の奥、薄い雲が広がる空を背景にあの時と同じように椅子に座る会長がいるところへ近づくにつれ、動悸が速まっていくのを感じ、強ばる顔を引き締めようと思いつつ、その前へ御月堂と並んだ。 「本日はお忙しい中、貴重な時間を取らせて頂き、誠にありがとうございます」 「挨拶は結構。手短に」 机の上に置いていた両手を組み直した会長が御月堂を見ていた目線を姫宮に向けた。 思わず目線を逸らしかけたのを何とか思い留まり、乾きそうな喉を唾で潤した後、口を開いた。 「まずは先日の治験のことですが、私の不都合で途中で終わらせざるを得ないことになりまして、申し訳ございませんでした」 「本当に。貴重なオメガのことを知れるきっかけにもなるはずでしたのに。貴方も二度もないチャンスをどうされるのですか」 「そのことに関しましては先日──」 「それは、」 御月堂の言葉を遮った。

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