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このようなことをしていても相手が納得するはずがない。
これはただの自己満足でしかない。
それでもこの行為をしたかった。
「顔を上げなさい」
間もない頃だった。
すぐにそう言われるとは思わなく、戸惑いを覚えた姫宮は一拍遅れて顔を上げた。
すると一瞥した会長はこう言った。
「今、貴方の口から話したことはそれらは事実として受け止めます。世間を知らなかっただけでは済まされないことですが、こちら側も非があるところがありましたので」
これは一応は分かってもらえたということなのだろうか。
「ありがとうございます」
「ところで、貴方はうちの息子と深い関係で?」
「⋯⋯ぇ⋯⋯」
漏れそうになった素っ頓狂な声を慌てて飲み込んだ。
「⋯⋯申し訳ございませんが、一体何を仰っているのか⋯⋯」
「貴方が治験の際に具合が悪くなった時、『慶様』と呼んでいたことから、そうなのかと息子に訊いたらそうだと答えたので」
思わず隣を見やる。
すると、御月堂は一瞬目が合った後、それとなく視線を逸らした。
御月堂とはそういう関係だと姫宮自身も思っていることだが、第三者とそのような会話をしていたと思うと、妙な恥ずかしさを覚えた。
「それで、本当にそうなのですか」
「はい、そうです⋯⋯」
「⋯⋯そう」
そう呟いた後、会長は黙り込んだ。
何か返答を間違えただろうか。
嫌な汗が背中に伝い、抑え込んでいたはずの強ばった顔が表に出始めた頃、会長は姫宮とも御月堂とも見ることなく、まるで遠くを見るような眼差しを向けた。
「⋯⋯御月堂家は代々、アルファという第二の性において最高である性と一際良い家柄を娶り、優秀な血を継いだ者で繋いできました。それが当たり前でこの世の摂理でした。ですが、互いの家の利益になるためとはいえ、どんなに良い家柄であっても、世間に広まってしまうほどの問題がある相手であったら、元も子もないというのも身をもって知ったのも事実です。とはいえ、身分差のある者を娶る形にしても、今度は世間の風当たりも強く、そしてその身に足らないほどの責任がのしかかってきます。そのような元で貴方はそれ相応の覚悟はあるのですか」
後半辺りから目を向けて言う会長に問われた。
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