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続 崩壊した世界で Ⅳ

※ 汗を舐める描写と軽い洗脳があります。ご注意ください。  農作業、バリケード強化、破れた衣服や靴の修理。  一日などあっという間に過ぎる。なんせ電気が無いため、暗くなったら作業終了。夏に向け日は伸びてきているとはいえ、完全に暗くなる前に寝床へたどり着かなければならない。  占拠していた者たちが犬小屋に押し込まれたいま、虐げられていた者たちはショッピングモール内を自由に使うことができた。わずかに残っていたマットやクッションを皆で分け合い、各々適当な場所で眠りにつく。トイレの近くは、流れて行かない汚物で汚臭が漏れ出ているため誰も近寄らない。明日。幻曜があいつらにトイレ掃除させると半ギレていた。あいつ等は震え、民衆は喝采していた。  外では交代で、最低二人が見張りとしてたいまつのそばでゾンビを警戒する。見張りは弁慶のようにたくさんの武器を身体に括り付けて、目をぎらつかせた。  安易に吸血鬼に頼らない姿勢が好印象だった。 「大人数で作業というのは楽しいな!」  今まで二人っきりだったせいか、大勢の人に、それも差別されずに関わることが出来て軽羅は上機嫌だ。一日中ガハハ笑いをしているため、周囲の人もつられて笑ってしまう。  せっせっと寝床を整えていた歳星は枕をパスした。 「そうだねー」  面白くなさそうな表情だ。 「疲れたか? さ、寝てしまおう」  日が沈むと眠り、朝日と共に起きる。健康的だが相変わらず光の見えない闇に覆われた未来。切迫感や焦燥感、ゾンビ、怪我、病。あげたらキリがない暗黒。一番死にやすい幼少期を、崩れる前の日本で過ごせたのは大きい。が、サバイバル能力が低い。端から路上生活している者や、貧しい国の人々の方が適応していると勝手に思う。  歳星は自分のマットではなく、軽羅の布団に入ってくる。軽羅も当然のように受け入れた。  彼らがマットを置いたのは、二階のゲームセンターの隅っこ。静かで明かり一つないゲームセンターはおかしな気分だった。ガラスの向こうに流行っていたぬいぐるみが置かれている。お菓子が景品の台はとっくに破壊され、ひとつ残らず奪いつくされていた。 「軽羅」 「ん? どうした?」 「……キスしても、いいの?」  付き合ってないからと拒み続けられていたのだ。チャンス到来とばかりに目が煌めく。  軽羅は身を起こした。つられて歳星も座る。 「変化ではなく。幻曜が言っていた、再生回数や身体強化に、上手く割り当てられそうか?」  歳星は顎に指をかけて低く唸る。 「そう、だね。どうだろ。前回はそれどころじゃなかったけど今なら……。ごめん。吸ってみないと分かんない」  軽羅はがばっと服を脱いだ。浴衣は汗だくになったため水洗いして干している。今着ているのは寝間着だがサイズが合っておらず、胸元の絵柄が左右に伸びてしまっていた。 「な、んで脱ぐの?」 「苦しい」  無駄に鍛えたのが仇となったか。暑いし寝るだけなのでいいだろう。  さあ、と両腕を広げる。 「汗でも強化できるか、嫌でなかったら舐めてみてくれ!」 「はーーーあ」  据え膳……の言葉が脳裏によぎる。この状態で襲ってはいけないのだから、まーた拷問かよと、歳星の目が据わった。  だからといって「それならやめとこう‼」と言われても、それはそれでムカつくし嫌だ。  腕を掴んで引き寄せる。  汗のにおい。更衣室や体育館ではげんなりしていたのに、下半身が反応してしまいそうになる。 (理性、保てるかな)  無理だったら軽羅が悪いということにしよう。  肩甲骨に届きそうなレモン髪を払い、首筋に舌を這わせた。 「ひえっ」  さっそく可愛い悲鳴がボディブローしてくる。  幻曜に噛みつかれた箇所を上書きするように、丹念に舐める。 「っ、……ッ」  くすぐったがりにはキツイのか、口は弧を描いたままぷるぷると震え出す。  鳥肌が立ってきて面白いなと歳星は目を細める。  はむっと耳を甘噛みすれば、服を掴んできた。 「み、耳は汗かいてないと思うぞ⁉」 「ふーん」  ――ああ。そう言えば汗でも強化できるのか試すんだっけ。  すっかり軽羅に夢中になっていた。  身体から湧き上がってくるあの感覚は、まだ無い。 「もっと量が必要かも」 「ン、そうか。あッ」  鎖骨に歯を立ててやればぴくっと跳ねる。軽い抵抗のように手が押し返そうとしてくるが、鼻で笑ってしまう。 「抵抗するなら、腕縛っちゃうよ?」 「すまん。いやどうしても動いてしまうな。どうしたものか」 「ま、いいや。どうせ意味ないし」 「……ああ」  一瞬下唇を噛み、わずかに悔しそうな顔をしたのが気持ち良かった。  喉仏を舐める。 「そ! こは、くすぐったい」  肩を叩いてきたが、邪魔そうに払いのける。首筋を上がっていき、耳の穴に舌先をねじ込む。 「ッ! ……、ぁ……!」  顔を見れば、手の甲を噛んで声を我慢している軽羅。悪戯心が芽吹き、手の甲を弾いた。 「おいっ」 「声我慢しなくていいよ。どうせ近くに人いないんだし」 「だが、ひぅ」  こめかみにキスしてやれば小さく肩が跳ねるのが楽しい。  軽羅をマットに横たえさせる。太ももに跨り馬乗りになった。 「……歳星?」 「この体勢の方がやりやすいな」  そういうと軽羅は「そうか」とあっさり受け入れた。疑いもしない様に怒りと劣情が同時に噴き上がり、わけのわからない感情が渦を巻く。  立ち上がってきた乳首に吸いつく。 「うっ、ひあ!」  起き上がりかけた軽羅の口を掴んでマットに押し付ける。 「邪魔しないで」 「邪魔って、お前」  舌先で細かく突起を転がしてやる。 「ん、ん! ぁ、そこっ、ん……」  また口を塞いでいたので脇腹をくすぐってやった。 「ぎゃひぎいぃぃっ‼」 「……」  うるさい。耳栓をしておくべきだったか。 「なにするんだお前‼」 「手の甲噛んだら怪我しちゃうよ? 声出して良いから。ほら。普段みたいに声出しなよ」 「歳星? なんか目的が違」  どうでもいいことを言い出したので軽羅の乳首を強く吸ってやる。ビクンと腰が跳ね、荒い息が目立つようになる。  両手首を押さえつけて、吸ったり舌先でつついたりを繰り返していく。 「っは、ぁ……。やめ。そこ。吸わな、ッ」 「吸われた方がいや?」 「歳星」  吸盤のように吸いつかれ、乳首にチリッとした痛みが走る。それと同時に熱がヘソの下に溜まっていく。 「は、う」 「次こっちね?」 「アッ‼」  やめろという前に右に吸いつかれる。 「歳星やめ、吸わ、あ、ぁぁ」  いじめてくる舌先から逃れようと身体をくねらせるも、相手を誘う娼婦の踊りとしか思われない。やがて腰が何かを求めるようにうねり始める。 「どうしたの? 腰揺らして。ただの実験中だよ?」 「ん……。気にするな」 「ふふ。いやらしい気持ちになっちゃった?」 「お前な」  トン、と指先で額を叩かれる。疲れたような笑顔を見て、まだ余裕ありそうだなと嗜虐心が顔を覗かせた。  舌で転がし、もう片方の突起を指でいじくる。 「は! ……ぅ、あ」 「んー。しょっぱいかも」 「喋るな。う! ああ。そんな……」 「歯が当たっちゃった? ごめんごめん」  夕陽すらも差し込まなくなったモール内で、色づいた息遣いがやけに大きく響く。 「はあ、ぁ」  疲労も重なりぐったりする軽羅を横向きにして手を、頭上まで持っていく。むあっと腋が晒される。 「わき、舐めていい?」 「さすがに汚いし、やめとけ……。腹壊すぞ」  身体は拭いたが、石鹸でしっかり洗ったわけではない。  吸血鬼はネズミをいたぶる猫のように笑う。 「ノミや寄生虫だらけの野生動物に噛みついても何も無いんだよ? 笑わせないで」 「やめ‼ ああっ」  真っ赤な舌が下から上へ、汗をかき集めるように滑っていく。 「っ」  想定していない場所を舐められ、ぐっと奥歯を噛んで耐える。  声を押さえているのが気に入らないのか、歳星の手が胸を揉み始めた。 「あっ、お前、やめろって! 揉む必要っ、ないだろ……。んっ」 「そんなことないよ。汗が出るように手伝ってあげてるんだって」 「ふ、はあ、ああ……。歳星」  名前を呼ばれ、下半身が疼いた。ヤバくなったため一旦顔を離し、ごくんと飲み込む。 「んー? 汗じゃ駄目っぽい、かな」 「……はあ、そうか……。疲れた」  不味いと思いながらも見てしまう。息を吐き出す唇に、唾液でてらてらと光る尖った乳首。汗で貼りついた髪がいやらしく、頬や首筋に貼りついている。  今すぐ南極の海に飛び込んで頭冷やしたかった。  冷やせないばかりに、獲物に向かって手が伸びる。 「ハイ次。割り当てられるか確認しよ」 「きゅ、休憩は?」 「いま休憩したら、軽羅寝るでしょ?」  首の下に手を差し込んで抱き上げる。 「唾液欲しいんだけど、キスしていいの?」 「う」  言葉に詰まる軽羅に顔を近づける。 「何? 二言あったの?」 「うごっ! いや、そういうわけでは……」  ギクゥと顔を引き攣らせたが、捕食者は満面の笑みだ。ペットボトルに溜めた水で、律儀に口内を洗い出す。 「ぷは。じゃ、いただきまーす」 「っ……」  逃がすわけもないし、また今度にしようかなど言うわけもなく、軽羅の口に噛みついた。  緊張しているのか、ぎゅううっと歯を食いしばっている。 「ちょっと。舌入らないって」 「そう言われても、ひ!」  背中をくすぐってやると、一際大きく跳ねた。  首に腕を回し、軽羅の方からしがみついてくる。 (お?) 「歳星。背中は……無理だ。やめ」 「背中ね」  わざわざ弱いところを教えてくれた彼を愛しく思う。マンションで背中触った際も、飛び上がっていたっけ。  キスで口を塞いで、指は肩甲骨辺りをくすぐってやる。 「んう、ん、う、ん」  ビクビクとくねり始め、口内に唾液が溢れる。 「へえ。軽羅は気持ちいいとよだれが出ちゃうんだ?」 「違う! 変なことを、言っ」  騒ぎ始める口を塞ぎ、舌をねじ込む。彼は舌を噛まないように気を付けてくれているようだが、噛まれたところで痛くはない。 「ふ、あっ……」  くすぐりながら指は、腰の方へと下がっていく。軽羅は目を見開いた。 「ん! んんんっ‼ ん、あ、め」 (美味しい)  吸血鬼の舌は奥歯をつつき、次に上顎を撫でていく。 「は、あ……。あ、歳せ……。んっ、ん」  体力メーターが底を尽いたのか、身体を揺らし、喘ぎ声しか発しなくなる。 「も、やめ。は、んぁ」  溢れた唾液が零れ、顎に伝う。 「はう……。あ、ああ。や、んう」 (可愛い。もっと虐めたい)  追い詰めて、あんあん鳴かせてやればどんな顔をするか。  歳星の手がズボンの中に滑り込む。――が、爪が鋭くなっていることに気づく。夜だ。  唇を離し、軽羅の口内いっぱいに詰まっていた舌を戻す。吸血鬼になってから、舌が少しだけ伸びた気がする。  眠ったのか気を失ったのか。瞼を閉ざしてしまった軽羅の顔を見つめる。 (あー。駄目だ。こんな気持ちになるなんて。幻曜さんのことあれこれ言えないって俺……)  心のままに目茶苦茶にしてしまいたい気持ちを抑えるので精一杯だ。  本能と理性がボクシングしているのを感じながら、そっと軽羅を寝かせる。  幻曜がまとわりついてくるだけあって、軽羅の体液は美味しいと思う。ジュースとかではなく果物系の甘さが舌を喜ばせる。前回は味わっている余裕がなかったが、今は。 「? どうやって力を割り当てれば……? いや、そもそも俺はどうなりたい?」  決まっている。力のままに獲物をねじ伏せ、その身体を自由に暴……違違! 違う違う違う‼ 軽羅を守れるようになりたい。もう二度と、誰にも渡すものか。  少年は、成りたい自分を思い浮かべた。  調子に乗ったかなと不安だったが、一晩寝た軽羅はすかっと目覚めてくれた。 「おはよう」 「お、おはよう!」  だが歳星を見ると挨拶だけしてそそくさと畑に行ってしまう。さすがに照れているようだ。  歳星は追いかけると背後から抱きしめた。耳元で囁く。 「今夜も、ヤろうね」 「っ!」  耳を押さえて振り返ってくる驚きと照れが混じった表情に、歳星は神父の如く微笑した。  ーーー  ゾンビの群れが迫っていた。  人間たちをショッピングモール内に避難させ、立ちふさがっているのは二体の吸血鬼。一台も車が走っていない四車線でポツンと立つ。  外が見える一面ガラス張りのフードコートで、軽羅と大人たちはハラハラしながら見守っている。 「はーあ。あいつらにトイレ掃除させてる途中だったのに。口で」  幻曜がとんでもないことを言った。 「悪魔ですか、あんた」  横のおじさんは本当に元人間だったのだろうか。ゾッと体温が下がる。 「なんでも言う事きくって言うからサ。ほんとに~? って。忠誠心を示せよって言ってあげたんだ。優しくね!」  いやいや冗談ダヨって言ってほしかった。 「へー。話しかけないでください」 「まあまあ。聞きなよ。昨日、一人一人違う躾をしてやったの。楽しかったんだ~」  百体のゾンビが迫ろうと、二人はゆるい空気のままだった。  軽くあしらう吸血鬼たちを、遠くから眺める一つの影。 『――吸血鬼、二体、発見。至急本部へ連絡せよ』  煙草一本吸い終える程度の時間で、二人は戻ってきた。軽羅が真っ先に出迎える。 「大丈夫か⁉ 怪我は?」  自分の元へすっ飛んできてくれた軽羅に、歳星はほんわか笑顔だ。 「無いよ」 「怪我しないって。雑魚相手にさぁ」  大人たちもわらわらと出て来て吸血鬼を取り囲む。 「かっこええなぁ。怪我はないか?」 「疲れただろ? 水をお飲み」 「いやあ。吸血鬼ってこんなに強いんか。でも無理したら駄目だぞ? 俺たちは良いから。すぐ逃げてな?」 「……」  めちゃくちゃ心配され、幻曜の口元が痙攣する。お年寄りが多いせいか幻曜も子ども扱いだ。 「フン!」  心がこそばゆいのか、人混みを押しのけてトイレへと消えていく。 「お兄ちゃんもありがとうな」 「どこも痛くないか?」 「おばちゃん、怖かったよ」  十代の歳星には手が伸びてきて、よしよしと頭を撫で回される。はにかむような笑顔で頷く。 「はい。大丈夫です」 「そう言えば幻曜はトイレ掃除しているんだったか? 偉いじゃないか! どれ。俺も手伝ってくるか!」  軽羅の肩をマッハで掴んだ。  ーーー  梅雨なので仕方ないとはいえ、また小雨が降りだした夜。  ぬいぐるみだけが静かに座しているゲームセンター。 「な、なあ。今夜はやめにしないか?」  ウキウキで軽羅をマットに押し倒すと、萎えることを言われる。 「はあ?」 「連日では疲れるというか!」 「軽羅元気そうだったじゃん。それに……今日戦ってて思ったけど、幻曜さん。強くなってた。ばかすか血を吸っているせいだろうね」  ちらっと眼を向けると、軽羅はドキッとしたようだった。 「俺が負けてもいいんだ?」 「……っ! 分かった。今夜もやろう」  ちょっとズルいなと思うが、幻曜の力が増しているのは本当だ。あれで善人だったら気を張らなくて良いのだが。 「キ、キスするだけだぞ? 歳星? 身体は触るなよ?」 「えーやだ」 「お前なぁ……。じゃあ、どうしたいんだ?」  ちゅっと唇に吸いつく。 「ん」 「そーだなー? 多少は鳴いてほしいかな」 「恥ずかしいとか、そういう問題じゃないんだが⁉」 「今夜は脱がないの?」  やっと乾いた浴衣を、お互い寝間着にしている。 「え、えっと」 「ああ。脱がせてほしいって意味? 察しが悪くてごめんね?」 「……」  軽羅は観念したように自分から腕を回し、歳星を抱き寄せる。 「あら。可愛い」 「人が来たら、教えてくれよ?」 「声聞かれたくないの? 可愛いね」 「可愛い連呼するな!」  なにやら照れたように怒っているようだが、可愛いものは可愛いのだ。マットに押しつけたまま、口内を貪る。 「ん、あ。歳星。ちょっと待て……」 「このタイミングで? キレそう」  でもお腹痛いとか頭痛いとかなら大変なので、顔を離してやる。 「何?」 「聞きそびれたんだが、力の割り振りはできたのか?」  どうでもいい内容だったので、顎を掴んで口を閉じられなくして、舌をねじ込んでやる。 「ん! ぐ」 「あんまり焦らすと、優しくしてやんないからね」  くちゅくちゅと、互いの唾液を交換する音が響く。ぬいぐるみさんが耳を塞いだ気がした。 「……あ、ぁあ。あ、あつい……」 「ん?」 「はあ……ん。もっと……」  軽羅の様子がおかしい。もどかしそうに太ももを擦りつけ、なんと自分から舌を絡ませてきた。歳星の唾液を欲しがるように。 「軽羅?」 「……はい」  軽羅の敬語に寒気がすると同時に、何か違うと強く感じた。上から退けると、追いかけるように軽羅も四つん這いで近寄ってくる。 「軽羅? どうした?」 「……何が?」  歳星は逡巡すると、はっと何かに気づく。 (もしかして……)  吸血鬼は血を吸うときに、家畜に力の一部を分け与える。家畜が丈夫に長持ちするように。だがそれ以外にも効能があったとすれば? 例えば、命令を聞きやすくなるなど。吸血鬼側に、支配者側に都合が良いもの。  そう考えると、幻曜の無茶ぶりどころではない命令にあいつらが従っている理由も納得できる。  ただ幻曜がヤバい奴だなと思っていたが、吸血鬼全般がそうなのだとしたら―― 「軽羅。浴衣脱いで?」 「……ああ」  犬のように座ったまま素直に腰紐を解き、あっさりと浴衣を脱ぎ捨てた。確定である。  覗き込むと瞳に光はなく、命令を待つ人形のようだった。 (嬉しいけど、解釈違いかな)  歳星が惚れたのは太陽のような軽羅だ。人形に用は無い。彼の顎に手を添えて目線を合わせる。 「軽羅。俺の命令に従う必要はないよ。好きにしろ」  自由を言い渡すと、彼は目が覚めたようにぱっちりと大きく目を開いた。 「……? あれ。寝ていたか? なんで裸⁉」 「軽羅。身体に変なとこない?」 「は? 何かあったか?」  胡坐をかき、せっせと浴衣を着こんでいく。どうせ脱がすのに。  歳星は人形に成りかけていたことを説明してやった。 「……ふむ。人形より、意思のある俺の方が良いと? 嬉しいな」  なんか可愛く笑っている軽羅に、虐めたい欲が炎のように理性を焦がしていく。 「あれじゃあ軽羅の皮被った人形だよ。すんごい萎えた。イラつく」  軽羅はいい笑顔で親指を立てた。 「では! 今夜はやめておくか!」  人差し指で胸の突起を引っ掻いてやる。 「ひうっ⁉」 「馬鹿。これから八つ当たりタイムに決まってるでしょ?」  マットに押し倒し、腰布を力任せに引き抜く。 「俺悪くないのにか⁉」 「だって、勃ってるじゃん。軽羅」  浴衣生地を押し上げるソレに、軽羅はごくりと息を呑む。 「なんだか、変なんだ。お前とキスしてから。か、身体が疼くというか……」 「おや?」  どうやらまだ、他に効能がありそうだ。 「二人でしーっかり試していこうね」 「お、おう」  楽しそうな歳星に、頷くしかなかった。

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