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第14話

殴られるような快感、というのがしっくりくる。 やめて、と言いかけた瞬間に電流が全身を駆け巡る。白希は自身と宗一の掌の中に、熱い飛沫を放った。 「あっ……は、あ……っ」 シャツを下着ごと剥ぎ取られる。気付けば一糸まとわぬ姿で、後ろから抱き締められていた。 イッてしまった。まだ会って間もない人に触られて。 唾液で汚れた口元を自分でぬぐう。 「いっぱい出せたね。いい子だ」 宗一は白希の果てた性器を、ゆっくり撫で回した。 「初めてしたのはいつ?」 「初めて……は……」 冷静じゃない。頭がぼうっとして、彼の恥ずかしい質問に真面目に答えていた。 「もっと……子どものとき。射精はできなかった、けど」 何の揺らぎもない綺麗な水面。そのずっと奥底に、秘められた記憶がある。 “誰か”を意識して自慰をしたのは、確か十三の時だ。一度も逢ったことがない人を想い、夜中に自分で慰めた。 「宗一さんのことを……考えながら、シたことがあります」 その頃は声しか知らなかった。頼りない情報とつたない想像力だけで創り上げた想い人。 墓場まで持っていこうと決めてたのに。ひどく遅れて、後悔の大波が押し寄せてきた。 絶対引かれた。恐る恐る表情を窺うと。宗一は目を丸くしていた。よく見ると、頬は少し紅潮している。 「きっ……気持ち悪いこと言ってすみません……!」 既にパニックに陥ってるが、まずは謝って、それから弁解しないと。あれは現実逃避で、馬鹿な子どものいっときの感情なのだと。 ところが、宗一は白希の手をとり、甲に優しく口付けした。 「嬉しい…………。つまり、私達は両想いだった。ってことだよね?」 「……え」 そう……なのか? 恋心を抱いてたのは子どもの時の話だ。 でも、彼の強さや優しさに惹かれてるのも事実。 恋愛感情として、俺は宗一さんが好きなんだろうか。 起き上がってから、のぼせたような頭で真剣に考える。 「はは、分からなかったらいいよ。でも分かったら教えてほしい」 手がゆっくり離れていく。彼は立ち上がり、床に落ちた服を拾う。 何だかそのまま“終わって”しまいそうな気がして、無意識に手を伸ばしていた。 「……待って」 このまま放っておかれたら、凍えて死んでしまいそうだ。まだ体と頭が火照ってるうちに、ずっと溜め込んでいたものを晒してしまいたい。 「……宗一さんにずっと会いたかったんです」 けどそんなことどうでもよくて、彼のシャツを掴んだ。 「納屋に閉じ込められてた時……貴方だけが、唯一俺のことを気にかけてくれて、本当に嬉しかったんです。これがどういう感情なのか自分でも分からないけど……これから先も、叶うなら一緒にいたい」 ただの願望だ。叶わないことは分かってる。 だからこそ、軽々しく口に出せた。離れるなら尚さら、本当の気持ちを伝えておきたい。 夫婦とか、特別な関係になれなくてもいいんだ。ただ近くにいたい。世界で一番信頼して、心を通わせたいと思うのは彼だけだから。 頬をつたう涙をぬぐい、床に足を下ろす。自分が着ていた服を代わりに拾おうとすると、その手を掴まれた。 「白希……っ!」 今までのはささいな戯れだとでも言うように、激しい愛撫をされた。 「あ……っ!」 訳が分からぬまま、またイかされて、床を汚した。 つま先が天井に向いて、呆然とそれを見ていた。 「君も私のことを求めていた……か。まずいな。今にも飛んでしまいそうだ」 宝石のような美しい瞳に、何とも妖しい色が灯る。 「ちなみに、十年前私に求婚したのは白希の方だ」 宗一は白希の太腿に、指でなにかの文字を書いた。 恥ずかしい記憶が走馬灯のように駆け巡り、視線を逸らす。 ……なんてことだろう。子どもの頃の自分を引っぱたきたい。 「……と。このままじゃ風邪をひくね。この話はまた今度にして、お風呂にしよう」 「え……わっ!」 宗一はこちらに迫ると、自分を抱き抱えた。全裸なこともあり、堪らなく恥ずかしい。 「お、下ろしてくださいっ」 「暴れない暴れない」 力を入れて押してもびくともしない。おかしなほど手応えがない。間違いない。重量操作されてる。 一般男性の体重ではなく、犬猫レベルで軽くされてるようだ。彼は浴室に入ると、ドアの前に立ち塞がって白希が逃げられないようにした。 「お湯も沸いてるね。良かった」 「宗一さん……その、求婚って」 良くないかもしれないけど、蒸し返してしまった。なんせ黒歴史中の黒歴史だ。 かつて白希は、顔も知らない相手に全てをさらけ出していた。その相手こそ宗一になるが、今思うと若気の至りじゃ済まない。 子どもが考えることというのは、時に残酷で、時に常軌を逸している。 青い顔で浴室の隅っこに寄ると、宗一は自分の服を脱ぎ始めた。 「思ったとおり、綺麗に忘れてそうだね。でも構わないよ。君には今の私を好きになってもらう」

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