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第17話

勇気を出して、少し突っ込んだことを言った。 少しでも迷惑そうな素振りをされたら撤回しようと思ったけど、彼は意外そうに目を見開き、浴槽の縁に頬杖をついた。 「君から興味を持ってくれるなんて嬉しいな。……もちろん、気になることは何でも答えるよ」 「やった。ありがとうございます」 彼の笑顔につられ、一緒に微笑む。 彼のプロフィールは大まかなものしか知らない。ひとりっ子で、高校からはほとんど市街地で過ごし、大学に入る前に完全に村を出た。 白希の八つ上。兄と同い年だから、今は二十八だ。正直、八つしか違わないなんて信じられない。何をどうしたらここまで成熟できるのか。 きっと、生まれ持ったものが違うんだろう。環境はもちろん、本人の性格や素質も大きく影響する。 自分は酷い出来損ないだった。要領が悪くて、何をやっても叱られた。 いっそもう余計なことはしないで、大人しくしていよう。そうすれば誰も怒らない。迷惑もかけない。 何も喋らず、じっと。 でもそれって……生きてる意味があるんだろうか。 「白希、じっとしててね」 「はわっ!!」 男二人の昔話も終わり……。脱衣室で身体を拭いてる最中、頭に熱風が当たった白希は飛び上がった。 宗一がドライヤーをつけて白希の頭に向けたのだが、突然のことに驚き、力が働いたらしい。一度はドライヤーを落としたが、重さを調節して床に落下する前に掴んだ。 「ごめん! 向けるの早すぎたか……大丈夫?」 「だっだだだ大丈夫です。こちらこそすみません! 手、大丈夫ですか!?」 「はは、平気だよ。急に冷たくなって、驚いただけ」 宗一は笑って手を振る。 また危うく物を壊しそうになった。頭を深く下げたものの、胸の奥がちくりと痛んだ。 「……はぁ」 お風呂上がりは冷たいレモン水を受け取り、一気に飲み干した。 白希が空になったコップをキッチンへ持っていくと、宗一がちょうど食洗機から食器を取り出していた。 タオルで手を拭き、宗一は白希の髪を少しだけ持ち上げた。 「まだ良い香りがする」 「ありがとうございます。でも宗一さんは常に良い香りですよ」 お世話ではなく事実だ。髪はもちろん、指先まで華やかな香りがする。 ふと、彼の長い指に目を奪われた。さっきは浴室で、この手に色々されたと……。 うっ、思い出さなきゃ良かった。 また首のあたりが熱くなってきて、それとなく宗一から離れる。うっかり彼の回りのものを温度変化させない為に。 それにしても……。 「宗一さんは……経験がたくさんあるんですか?」 「え? 何の?」 「その~……何と言いますか。え、えっちなことです」 しどろもどろに返すと、彼は可笑しそうに吹き出した。 「急にどうしたの」 「……こんなこと言うのは良くないと思うんですけど。……気持ちよかったんです」 両手を組み、うつむき加減に呟いた。 「やっぱり色々なことを経験されてるんだろうな、というのが一つ。もう一つは、嫌じゃないのかな……って」 「えーと。もしかして、白希の身体を触ること?」 すぐに頷くと、彼は目を眇めた。 「残念だけど、許されるなら一日中白希に触れてたいよ。今だってそう」 唇を掠め取られそうになった。慌てて身を引くと、彼は笑いながら両手を上げた。 「キスはしない。約束は守るよ」 「……っ。どうして、そこまで俺を」 彼の瞳を真っ直ぐ見つめ返す。彼の瞳にうつる自分は、ひどく弱々しい生き物に見えた。 彼が自分に優しくするのは同情心からかもしれない。家を失い、家族が消えた。行き場のない同郷を放っておけなかったから。 でも分からないことがある。宗一さんは東京で働き出して、村へ帰る機会はほとんどなくなったはずだ。 「……宗一さんは、どうして私の家が火事になってると分かったんですか?」

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