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第22話

「白希様。お疲れ様です。着きましたよ」 「はいっ!」 前傾したせいでシートベルトが胸にくい込み、地味に痛かった。 「今日一日動き回って大変だったでしょう。もう少し日をまたいでお手伝いしたかったんですが、私も中々都合をつけるのが難しくて……本当にすみません」 彼が謝る謂れは何一つない。罪悪感に潰されそうになりながら、とにかく否定した。 彼は少し笑い、玄関まで送ってくれた。 「……そうだ。私の連絡先もお渡しします。なにか分からないことやお困り事があれば、遠慮せずご連絡ください」 真岡は名刺入れから、電話番号が書かれた名刺を渡してくれた。 「わぁ……! 名刺を頂いたの、初めてです。ありがとうございます」 「あははっ。それでは、また。失礼します」 白希は名刺を手に、再び頭を下げた。ドアが完全に閉まるのを見届け、エレベーターに乗る。 真岡はスマホを取り出し、連絡帳を開いた。 見慣れた電話番号をタップし、着信をかける。三コール目で相手は電話に出た。 「もしもし、真岡です」 ポケットから車のキーを取り出す。路肩に停めている車へ向かうと、そこにはスーツ姿の青年が佇んでいた。彼は耳に当てていたスマホを下げ、通話終了ボタンに触れる。 「知ってる」 真岡のスマホの画面も、通話終了の表示が映し出された。バレない程度の小さなため息をつき、スマホをポケットに仕舞う。 「お疲れ様です、宗一様。早かったですね」 「そりゃあ、一刻も早く白希に会いたいからね」 真岡がロックを解除すると、宗一は彼の為に運転席のドアを開けた。 「ひとまず、やることは終えました。こちらがお預かりしてる書類です。ご不明なことがあればご連絡ください」 「分かった。今日は本当にありがとう、雅冬。君にしか安心して白希を任せられない」 宗一は踵を踏み鳴らし、いつもと同じ優雅な微笑を浮かべた。 笑顔を向ける相手を間違えてると思ったが、特につっこまずに真岡は運転席に乗った。 「……白希様は本当に可愛らしい方ですね。素直で、謙虚で……あんな方、中々いません。大事になさってください」 「君にしては随分褒めるじゃないか。何をあげても白希だけはあげないけど、いいかい?」 「貴方という人は本当に……いえ、何でもありません。ご心配なく」 ドアを閉め、エンジンをかける。真岡は思い出したように窓を開けた。 「そういえば大事なことをお伝えし忘れました。今日一日一緒に行動しましたが、恐らく白希様の力は一度も働きませんでしたよ」 単純に、力も出せないぐらい疲れていた可能性もあるが……終始落着していたし、普段出掛ける分には心配ないと感じていた。 それに対し、宗一も落ち着き払って答える。 「そうか」 「驚かないんですね」 「普通に過ごしてれば暴走なんてしないからね」 ポケットに手を入れ、宗一は一歩後ろへ下がる。 「でも白希様のご両親……余川さん夫妻は、彼が力をコントロールできないから屋敷の中に閉じ込めていた。そうですよね?」 恐らく、村の出身以外でそのことを知ってるのは真岡だけだ。全て宗一から聞かされたことだが、白希はあの異質な力を恐れられ、実の両親に軟禁されていた。 宗一も類似した力を持っているのに、待遇が雲泥の差だ。 万物を調節できる力……その伝説自体は春日美村では知られているのに、何故白希だけ冷淡な扱いを受けていたのか。個人的には一番気になる。 答えを待っていると、宗一は両肩を上げ、呆れたように呟いた。 「そう。でもご両親こそ、白希が力を使いこなせなくなった原因だ。本当はもっと他人と接して、自分を律する機会を得なくてはいけなかった。けど人と接する機会を奪い、ますます世界から遠ざけた。何年も孤独に過ごして、他人を怖がる白希がコントロールできるはずがないんだ」

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