52 / 104

第52話

「前に何でそんなに結婚にこだわるのか、不思議がっていたね」 紙をテーブルに置き、宗一さんは目を細める。 「社会的に強い繋がりを得たいというのが一つ。もう一つは、君に花嫁衣装を着せたいから」 「え?」 「真っ白な晴れ姿も憧れていただろう?」 宗一さんは自分の部屋から、少し色褪せた封筒を持ってきた。裏面には白希の名前が書かれている。ずっと昔、自分が彼に送った手紙だろう。 「宗一さん……もう、これらは俺の恥ずかしい歴史なので」 「自分の夢を恥ずかしいなんて言っちゃいけないよ。他人には笑われるかもしれないけど……それなら尚さら、自分だけは大切にしてあげなくちゃ」 丁寧に便箋を開け、初々しい文字を辿っていく。そこには確かに、謎の結婚への憧れと、その後の理想の生活について書かれていた。 どういう経緯でこの話題になったのか分からないが、遡っていくと前回の手紙で宗一さんから結婚のイメージなどを根掘り葉掘り訊かれているようだった。 「これは誘導尋問だと思います」 「そんな言葉どこで覚えたんだい。あんまり怖いドラマや映画ばかり見ちゃ駄目だよ」 宗一さんは不服そうに顔を顰めるけど、こちらとしては少々違和感がある。好きなタイプとかを遠回しに書いてるし、もし質問されてもないのに答えてるとしたらかなり積極的なアプローチだ。 宗一さんに訊かれて答えてるだけならまだ良いんだけど……久しぶりに触れた便箋からは、温もりを感じた。 「ほら見て、大きな花束と白いドレスが着たいって書いてある」 「これ本当に俺が書いたんですか……男なのに……」 「私が、男でもドレスを着ていいって書いたんだよ」 「やっぱり誘導してる!」 のほほんと答える彼に全力でつっこんだ。しかし自分も、世間知らずじゃ済まない。花婿じゃなく花嫁になれると本気で思ってたんだ。 今は同性婚が認められてるけど、そうじゃなかったらひたすら痛い子どもだったな……。 嫌な手汗をかきながら、自分が綴った文章を追っていく。 宗一さんのことが大好きなんだな。 客観的に見てもそう思える内容だった。 「君には分からないだろうけど、平静じゃいられないぐらい、熱い想いが込められてるんだ。もしかしたらこれは君だけが持つ力なのかもね」 「はー……確かに、その可能性もありますね」 書いた俺は意識してないけど、宗一さんはこの手紙から凄まじい感情が流れ込んでるらしいから……好意が爆発していた俺の手から、手紙に特別な熱が込められているのかもしれない。 でもそれ、本当に恥ずかしい力だ。要は自分の感情を制御できてないから漏れてしまったに過ぎない。 「純白の衣装か……確かに憧れますけど、宗一さんの方が似合うと思います」 「似合う似合わないじゃないよ。自分が着たいかどうか。私も常にそうしてる」 「それは宗一さんがかっこいいから……」 苦笑いしながら答えると、ぎゅっと頬を手ではさまれた。 「じゃあこうしよう。かっこいい私が言うんだから信じなさい。君は、世界一可愛い」 「……っ!!」 なんって甘い口説き文句だろう。 直視するのも恥ずかしくて、彼の手に触れた。 「白希? 私のせいだけど、ちょっと熱い」 「はわっ! すすすすみません!」 力が働いて、彼の周囲の温度が上昇してるらしかった。慌てて離れ、席から立つ。 「大丈夫だよ。この紙さえ無事なら」 宗一さんは婚姻届を二つ折りし、軽くキスした。 「改めて言わせてくれ。これからは私の妻として、共に生きよう」 宗一さんは俺の頬にも口付けた。 く……何でこの人は、こんなにも当たり前にスキンシップができるんだろう。俺なんてちょっと手が触れただけでも慌てるのに。 胸焼けしそうなほど甘やかして、とけそうなほどに愛する。 彼にロックオンされた人は、俺じゃなくても自惚れて、おかしくなってしまうはずだ。 愛されるのって、……幸せ過ぎて息が苦しい。 「宗一さん……っ」 彼の襟に触れて、胸に顔をうずめた。 どうしよう。……嬉しい。 「俺と、結婚してください……!」 震える声で叫んだ。家だからいいものの、外だったら中々大胆なプロポーズだ。 引かれてないかな。恐る恐る返答を待ってると、弱い力で顎を上げさせられた。 「あぁ。絶対に幸せにする」 「ふふっ……もう、これ以上なく幸せです」 「いーや、限界はないよ」 互いの首筋にキスしてじゃれあっていたけど、宗一さんの寝室に連れていかれる。 これって、やっぱりそういうムードか。ひとりで納得してると、ベッドに押し倒された。 二夜連続でしちゃうことに謎の罪悪感を覚えたけど、彼に撫でられた瞬間、太腿は馬鹿みたいに跳ねる。 ズボンを脱がされ、宗一さんは執拗に内腿にキスしてきた。もっと核心的な部分に触れてほしいのに、絶妙に焦らしている。 「……っ」 俺に魅力なんてないと分かってるけど、いつも翻弄されるだけだ。たまには自分から彼を興奮させてみたい。 でも結局耐えられなくなって、下着を脱いでしまう。淫らな糸が引いて、目を瞑ってしまった。 「ぬれてるね。触ってほしそう」 「や……っ」 赤くなった熱の中心が彼の目に晒される。思わず脚を閉じるも、簡単に開かされた。 「こんなに綺麗なんだから、もっと自分に自信を持ちなさい」 「そう言われても……そ、宗一さんの身体しか見たことないから」 そして彼の身体はよく引き締まっていて、首からつま先まで見惚れてしまう。自分と比べるのもおこがましい。 「君は天使だよ」 「……っ」 だから、そういうことを言わないでほしい。 下半身がさらに熱を帯びて、じっとしてられなくなる。 気付いたら自ら、後ろに手を伸ばしてしまっていた。 小さな入口を容赦なく貪られる。舌先が潜り込んだ時、自分を手放していた。 腰を持ち上げられ、彼の肩に両脚が乗る。目の前には宗一さんの頭しか見えない。綺麗な髪に指を絡め、必死に息づきした。 達するのは早く、少し強く吸い上げられただけで射精してしまった。 「あはは、健康そのものだね」 「な……っ」 もったいなさそうに口元についた液体を舐め取り、微笑む。 こんな夜がずっと続くとしたら……本当に大丈夫だろうか。身が持たない気がしてきた。 「これからは私に愛されることに嫌でも慣れるよ。毎晩時間をかけて教えていくからね」 「宗一さん? ちょ、俺は体力ないので加減して……」 じりじりと距離を詰める彼から、さりげなく後ずさる。ところが腰を引き寄せられ、完全に仰向けになった。 宗一さんの鍛えられた肉体が視界を覆う。 「だいじょーぶ。朝までまだまだ時間はあるから、休み休み。……ね?」

ともだちにシェアしよう!