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第4話

「えと、話戻しますけど。連絡先、もう一回登録しません?」  再び腰を下ろした先生の斜め後ろで、自分のスマホを構え直す。できたら電話番号もゲットしたい。先生のスマホは、さっきのやりとりの後、画面を点けたきりデスクの上に放置されてる。ホントに無頓着だな。  先生は、つ、とまた眉を寄せて俺をちらっと見た。 「――必要か?」 「必要ですよ!」  まっすぐ先生を見詰め返し、きっぱりと力説する。  先生は、眉をひそめたまま少し唇を引き結んだ。講義のときによく見る表情だ。自分の説明が理解されていないときの。 「私はあまり頻繁にチェックしないぞ。用があるならSlackで連絡をくれればいい。そっちなら確実に即レスする」 「それもうただの共同研究者じゃないですか!」  がっくりとうなだれながら突っ込む。うん。覚悟はしてたけど。こういう人だよな。 「Slackは大学の事務連絡用でしょ!」 「メッセージのやり取りという点では同じだ。通話もできる」 「いやいやいや! そういうことじゃなくて! ……その、たとえば夜とか、ちょっとだけ声聞きたくなるときとか、先生にもあるかもしれないでしょ?」  先生がまばたきする。 「声?」  いやなんでそんな訝しげなんですか。俺は一瞬口ごもった。 「――ええと。別に内容なんかどうでもよくて、なんとなく喋りたい、みたいな……」 「どうでもいい内容なら、喋る必要もないだろう」 「――……」  ですよねー。  手ごわい。そうだった。この人、感情に名前をつけて対処するのが絶望的に苦手なんだった。 「じゃあ例えば!」  それでも俺はめげない。 「さっきみたいに何か誤解して、それを俺に確認したくなったとき! 俺、Slackじゃ即レスできないかもしれないですよ」 「確認したいことがあるなら、会ったときに聞けばいい」 「会うまで待てないかもしれないでしょ!」 「なぜ?」  ああもう、そんなキレイな顔で「なぜ?」とか聞き返すのやめて先生。抉られるから。  おかしい。俺のほうが圧倒的に理に適ったことを言っているはずなのに。論破されてる感あるのは気のせいじゃない。  先生は別に論破してるつもりもないんだろう。いつもと変わらない淡々とした無表情のまま、俺に差し出そうとしていたスマホをデスクへ戻した。 「先刻も言ったが、私は私用のスマートフォンはあまり見ない。連絡を取りたいならSlackが一番合理的――」 「だから!」  言葉が勢いで飛び出た。胸の奥から突き上げるように。 「恋人ですよ、俺! 先生の彼氏!」

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