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第9話 ※
ベッドライトのオレンジ色の光に照らされた空間に、二人分の吐息と水音が響く。
「……っ、……はぁ……」
舌を絡められ口蓋をくすぐられると、緊張に強張っていた体から力が抜けて頭の芯が甘く痺れていく。総一郎さまの大きな舌は存分に俺の口の中を舐め回した後、ゆっくりと離れていった。
白いシーツの上に横たわった俺は全裸、目の前の総一郎さまももちろん一糸纏わぬ姿だ。
「可愛い、和希……」
俺の身体のうえを総一郎さまが熱い視線が這う。可愛いと言われるなんて嬉しくもなんともないはずなのに、なぜだかその呟きに肌が熱くなってくる。
気恥ずかしさに総一郎さまの顔から視線を逸らしていると、首元をじゅっと吸われた。微かに走った痛みに小さく呻くと、総一郎さまがねっとりとその部分を舐め上げる。熱い手のひらが肌の上を這い、唇とともに下へ下へとゆっくりと下がっていく。
総一郎さまの指が、胸の先を弾いた。
ぴくん、と身体が揺れてしまうのは、その瞬間に微かな電気のような快感が肌を走っていったからだ。総一郎さまは俺の目を見ながらゆっくりと右側の胸の粒に顔を寄せた。
俺に見せつけるように、大きな舌で乳首を舐め上げる。ちゅうと乳輪を吸われ、口の中でこりっと粒を転がされる。もう片方は指でねっとりと捏ねられ、俺は背筋を走る快感に仰け反った。
男でも胸が性感帯になるというのは知っていた。でも俺は今まで胸をいじった経験などない。だというのに、きゅっきゅっと指先で摘ままれ捏ねられるとぞくぞくと身震いが止まらない。
「……っ、んっ」
思わず声が漏れそうになる。咄嗟に口を両手で押さると、総一郎さまは不思議そうに顔を上げた。
「どうして声を抑えるんだ？」
「……っ、だって、こんな男の声……」
「うん？」
「女の人みたいな綺麗な声じゃないから……総一郎さま……萎えちゃう……」
口にした途端、女々しいことを言ってしまったと後悔がこみ上げてくる。しかし総一郎さまはふっと微笑んで、俺の手を自分の下半身に導いた。
「触ってごらん。和希の気持ちよさそうな声と顔で、もうこんなふうになってしまった」
「……あ」
手のひらに濡れた感触が走る。触れた総一郎さまのそこは、既にかたく勃ちあがっていた。
「お……っきいですね……」
俺は口の中に溢れだした唾をのみ込み、身体を起こした。
俺だって男性の平均的なサイズだと思うが、総一郎さまのものは一回り以上大きかった。ぱんっと張った亀頭も立派だし、高いカリ首から続く竿には何本も太い筋が走っていて、なんだかもう見るからに狂暴って感じだ。手のひらで亀頭を撫でると、こぷりと先端から先走りが漏れた。嬉しくなってそこを握りこんで擦ろうとすると、総一郎さまは苦笑して俺の手のひらを引きはがしてしまう。
「わかっただろう？ 俺は君の声も大好きなんだ。聞かせてくれないか？」
「……はい」
ずっと不安だった。総一郎さまは俺なんかで勃つのだろうかと。だから実際に彼のそこがしっかり反応してくれているのを見たら、涙が出そうなほどに嬉しかった。
総一郎さまが伸びあがって俺の唇にキスを落とす。
「男として葛藤もあっただろう。それなのに、俺を受け入れてくれてありがとう。決して傷つけないと誓うから、どうか力を抜いていて欲しい」
「はい」
俺は総一郎さまの目を見つめてしっかりと頷いた。
身体を起こし、四つん這いになって腰を高く上げる。これからのことを想像すると羞恥で身体が震えてしまうが、恐怖はなかった。
人肌に温まったローションがとろりと尻の間に垂らされる。後孔に添えられた総一郎さまの指が穴のふちをゆっくり撫でた。
「んっ……」
くちゅりと音を立て、総一郎さまの指がゆっくりと身体の中に入ってくる。
太い。自分のものとは明らかに違う指の太さに驚いて息を詰めたとき、総一郎さまが呆然と呟いた。
「……柔らかいな」
「え？」
一瞬なんのことかわからなかったが、すぐにその言葉の意味に思い当たった。
「あの、自分で、練習、した、ので……」
羞恥のあまり声が震える。いい年の男が一人で尻を弄るだなんて滑稽そのものだろうけど、総一郎さまを他の女の子にとられたくない一心で必死にやってきた。その成果も出たと手応えを感じたが、総一郎さまはぴたりと手を止めて黙り込んでしまった。
――もしかして引かれてしまった？
不安が急に募り、俺は振り返って背後の総一郎さまの顔を見た。
総一郎さまは俺の後孔を食い入るように見つめていた。半開きの唇からは熱い息を吐き出し、見つめる瞳は熱く潤んで強い情欲が表れている。
「総一郎さ……っあっ」
身体の中にあった指がずるりと抜かれ、圧迫感を伴って戻ってくる。おそらく指が二本に増やされたのだろう。粘ついた音を立てながら指が出し入れされる。
「すごい……指に吸い付くようだ……」
総一郎さまの息が荒い。俺に興奮してくれているのだと思うと嬉しくて、身体が燃えるように熱くなってきた。
そのとき指が腹側のある一点に触れた。身体がびくっと震える。
「……っ」
「ここか？ 君のいいところは」
散々自分で穴の中を弄り尽くしたのでその場所は知っている。前立腺だ。
総一郎さまの指が確かめるようにそこを押し上げた。
「――んっ」
びくんと腰が跳ねた。自分で触ったときだって十分に気持ちが良かったけど、総一郎さまが触れるのは段違いだった。指が前立腺のしこりを揉みこむたびに身体に電気が走り、身体を支える腕ががくがくと震える。
「ぁ、……っ、……ぁっ」
俺の呼吸が乱れるのに比例するように総一郎さまの指はだんだん遠慮をなくし、後孔の中を掻きまわす。水音を立てながら指と指で前立腺を挟むようにして揉みこんだり、ぐるりと穴のふちを撫でては、二本の指で穴を広げる。
何本の指が出入りしているのか、もう俺にはわからない。内壁がひくひくと震えては総一郎さまの太い指をしゃぶっては喰い締める。
――あ、イき、そう……。
覚えのある感覚に身体を震わせて目を瞑ったとき、後孔からするり指が抜けていった。そして次の瞬間おかしな感触が後孔に走った。俺は驚いて振り返り、そしてあまりの光景に悲鳴をあげた。
「ひっ、なっ、なっ、舐めっ……！」
なんと総一郎さまは、俺の尻たぶを左右に割り開き、あらわれた蕾を自分の舌で舐めだしたのだ。いくらきれいに洗浄しているとはいえ、そんなところを舐められるなんて耐えられない。俺は総一郎さまの舌から逃れようと必死で身を捩る。
「あっ、や、やだ！ 汚いからぁ！」
「君の身体に汚いところなんてない」
「そんな、わけ……、あっ」
総一郎さまは暴れる俺の身体をいとも簡単に仰向けにひっくり返すと、足を開き、その間に顔を埋めた。慌てて足を閉じようとしたが、がっしりと太ももを掴まれて動けない。
総一郎さまの大きな舌が、ローションでぐしょぐしょになった穴のまわりや会陰のあたり、玉の部分を舐め回す。陰茎の根元から先まで裏筋をつぅーっと舐め上げ、舌を窄めて鈴口をつつく。
「ぁんっ、……ぁあ、もう舐めないでぇ……ッ」
あまりの羞恥と気持ちよさに身もだえる俺をちらりと見上げると、総一郎さまは目を細め、見せつけるように『あ』と口を大きく開いた。
「……ぅあっ！」
熱い粘膜が俺の陰茎を包み込んだ。びくんびくんと身体が跳ね、かかとがシーツを蹴とばす。
総一郎さまは一気に竿まで口の中に含むと、吸いあげながら頭を前後させ始めた。じゅぽじゅぽ音を立てながら亀頭を吸われると、腰が抜けそうなくらいに気持ちがいい。
どうしようもなく気持ちよくて、俺はシーツを握りしめた。こんなのムリだ。耐えられない。
目が霞む。ふくらはぎがブルブル震える。
「……あっ、も、イく……っ、離し……っあぁ！」
尿道を灼熱が駆け上った。頭が真っ白になり白濁が弾ける。最後の一滴まで精子を絞り出されるように亀頭を吸われ、俺はまた身体を大きく震わせた。
俺だっていい歳の大人なので、口淫を受けたことは何度かある。だけどこんなにも衝撃的な快感だっただろうか。快感の余韻が深くて、頭がぼうっとする。
はあはあと肩で息をしていると、蹲っていた総一郎さまがゆっくりと身を起こした。ようやく俺ははっと我に返る。
「うわっ、すみません！ 口の中に……！」
慌てて跳ね起きて、枕もとのティッシュ箱を引っ掴む。何枚も引きぬいてここに出してくださいと差し出したが、総一郎さまはなぜか首を振った。
「もう飲んだ」
「――え……？ の、飲んだ？」
俺はあまりの事態に固まった。しかし総一郎さまは俺が差し出しているティッシュで唇を拭うと、あっけらかんと笑う。
「君の出したものだと思ったら、飲んでしまった！」
なんだそれは！ かああああぁっと頬に熱が上る。
「駄目でしょう飲んだら！ お腹壊しますよ！」
「大丈夫だ。君も知っているだろう、俺は腹は丈夫だ」
俺の慌てた顔をじっと眺めて、総一郎さまが目を細めた。
「君が気持ちよくなってくれて良かった」
「総一郎さま……」
言葉が出ない。胸が熱くなって、総一郎さまへの気持ちが溢れる。
「俺だけじゃなくて、総一郎さまも……」
手を伸ばし、彼の屹立に触れた。そこはさっきよりぐっしょり濡れて、熱かった。
俺の身体に反応してくれるそこが、愛しくて仕方がなかった。
――舐めたい。良くしてあげたい。
そう思って彼の足の間に跪こうとすると、総一郎さまが首を振った。
「君のここに入りたい」
総一郎さまが俺の腰をするりと撫でて、俺の目をまっすぐに見つめる。俺は熱い息を吐いて頷いた。
「……ん。いれて、ください……」
総一郎さまの目がとろりと溶けた。小さく頷くと、俺の頭をひと撫でして身体を離す。
ベッドの足元に置かれたコンドームの封をきり、赤黒く反り立ったペニスに被せていく。傍らのローションを己の孤立を垂らしてごしごしとすりつけていく。
欲情しきった美しい男の姿に、身体と心が熱くなる。
うっとりと食い入るように彼の身体を見ていたのがばれたのか、顔を上げた総一郎さまにふっと笑われた。準備を終えた総一郎さまがベッドに上ってくる。俺はベッドに仰向けに横になった。
「あの、最初は後ろからのほうがいいって聞いたことがあるんですが……。こちらからでもいいですか？ ――総一郎さまの、顔が、見たいので……」
「もちろんだ」
総一郎さまは唇に軽いキスを落として俺の前に陣取った。太ももを撫で、それからゆっくりと足を開かせる。そして俺の顔を見た。
不思議な色合いの瞳には抑えきれない興奮と欲情が浮かんでいる。それでも俺を安心させるように優しく細められた目には労りが籠っていて、胸の奥が熱くなる。なんて美しいのだろう。こんなに身も心も美しい人が、俺のことを好きでいてくれるなんて……。
「綺麗だ、和希」
皮膜越しでも熱い塊が、孔に触れる。ぬちゅぬちゅと音を立てながら、上下に擦り付けられたらもう我慢できなかった。
「は、はやく……」
欲しい。この目の前の美しいひとの熱が欲しい。必死に目で訴えると、総一郎さまの喉がごくりと動いた。目が欲情でぎらりと光る。
「……言われなくとも」
ぐっと総一郎さまが腰を押し付けた。
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