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✦Ⅱ章✦ 仮面に隠した牙

 仮面をかぶれば、守れると思っていた。  傷も、記憶も、過去の名前さえも──全部、無かったことにできると。  けれど、仮面は“何もなかったこと”にしてくれない。ただ、見えなくするだけだ。  その下で疼いているのは、消えなかった痛み。滲んだ憎しみ。そして、誰かに触れたいという、浅ましい欲望。  居場所なんて、もうどこにも無いと思っていた。  でも、それでも。  たとえ、それが“戦場”だとしても、ナイフを手に握るこの厨房で、僕はもう一度、誰かと向き合おうとしている。  料理は、言葉よりも正直だ。  香り、温度、味、そして“誰のために作ったか”。  皿の上に、すべてが暴かれる。  そして今、この手に乗せたのは──  赦しではなく、選択。  過去ではなく、再生。  仮面の男が言った。「牙を隠すな」と。  ならば、僕は見せてやる。  この牙は、誰かを傷つけるためのものじゃない。  もう一度、“生き直す”ためにある。 🌹第Ⅱ章 「仮面に隠した牙」11〜20話 毎日22時更新|by 九条うるは

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