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「緊張するなぁ」  まるで、初舞台のようだ。  愛用のコーヒー器材を前に並べて、隼人は深呼吸をした。  空き部屋を、撮影用に使いたい、との提案は、笹山に却下された。 『キッチンで、日常を演出してよ!』  比呂をアシスタントにして、二人で共演を、との提案も、笹山に却下された。 『恋人と思われて、大炎上だよ!』 「私は比呂くんに、指一本触れていないのに」  いや……。 「昨晩、手を握ったっけ」  しかしあれは、彼が私を落ち着かせようとしてくれただけだ。  恋愛の何やら、という行為じゃない。 「隼人さん、10秒前だよ!」 「あ? ああ、解った」 (笑顔、笑顔!)  自然な表情を無理やり作り、隼人はカメラの方を見た。 「こんにちは。桐生 隼人です。いつも応援してくださる皆さん、ありがとうございます」  今回は、美味しいコーヒーを淹れてみたいと思います。  比呂が見守る中、ついに隼人の動画配信は始まった。

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