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第五章 ハプニング・ヒロ!
隼人さん、頑張って!
心の中で、比呂は隼人に一生懸命にエールを送っていた。
その効き目か、流れるように進行する。
オープンキッチンなので、リビングに三脚を立ててウェブカメラをセットしている。
配信に必要な事前準備は、先だって笹山が済ませてくれたので、後は隼人が行動するだけだ。
コーヒーを淹れる作業は慣れていることもあり、隼人は難なく振舞うことができた。
(いや、でも。ちょっと待って)
ふと、比呂は気づいた。
(何か、うまく進み過ぎてない?)
演技をするように、隼人はよどみなく作業をこなす。
まるで、ドラマのワンシーンのようだ。
これでは、見ている方はあまり面白くないだろう。
「次に、ケトルでお湯を沸かします。お湯の温度は、豆の焙煎度合いによって変えるんですよ」
比呂の焦りをよそに、隼人は涼しい顔で説明などしている。
「焙煎の度合いによって、熱の通り具合が変わるんです。コーヒー豆の成分を充分に抽出するために……おや?」
調子が乗って来た、と思われたその時、隼人の腕に何か柔らかいものが触れた。
どこか懐かしい、滑らかな感触。
目をやると、そこにはなぜかネコがいた。
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