25 / 229

5

「ニャァ」 「参ったな……」  そうは言いながらも、隼人は腰を落とし、ネコに向かって手を伸ばした。 「おいで。……比呂くん?」 「ニャァ」  温かく柔らかな、ネコ。  小さな、命のぬくもり。  そっと抱き上げ、隼人は慣れた手つきでその喉を撫でた。  ゴロゴロと、甘えた音が響く。  しかし、隼人はあることに気づき、落ち着かなくなってしまった。 「あの、比呂くん。このまま、ヒトの姿になってくれるか?」  一瞬、きょとんとした表情を見せたネコだったが、次の瞬間には比呂の体に変化した。  横抱きした格好の比呂の重みが、隼人の腕にぐんとかかる。  軽いネコとは違う、ヒトの体重だ。 「え、えへへ。ごめん、ね……。重いでしょ?」  その重量感に、隼人は真顔で訊ねずにはいられない。 「比呂くん……。質量保存の法則は、どうなっているんだ?」 「突っ込むところ、そこ!?」  隼人の腕の中から這い出した比呂は、改めて自己紹介をした。 「見ての通り、僕はネコのあやかしです! 立派な猫神様になれるよう、修行中です!」  よろしく、と開き直った、比呂だ。 (もうダメ。こんな気味の悪い存在、隼人さんは絶対に受け入れてくれないよね)  好きになった早々に、失恋だ。  しかし、うなだれる比呂の腕に、隼人は手を差し伸べた。 「よろしく……」 「え? ちょっと、隼人さん……?」  握手が交わされ、新しい二人の関係が始まった。

ともだちにシェアしよう!